もしそうなら、こんなに嬉しい相手はいない。


 野乃の学校での様子は、元樹君や野乃本人から聞くことがすべてだったけれど、多少の障害はあるにせよ、この子がそばにいてくれるなら、ますます安心だと思う。


 この短期間でよく野乃のことを理解してくれているなと、渉は目の奥がじわじわと熱くなってくるのを感じる。


 難しいところもある野乃を丸ごと包み込んでくれるような友達がいるのといないのとでは、きっとクラスの風景も違って見えるだろう。


 重めのボブカットに、校則通りに着た制服。一見、おとなしそうな子に見えるけれど、嘉納さんだって芯の強い子だ。


 ぜひ彼女にもちょくちょく店に顔を出してもらいたい。そのときはうんとサービスしよう。


 渉は眼鏡の奥の目を潤ませながら、そんな微妙にずれたことを思いつつ、真っ赤になって照れ続ける野乃と微笑む嘉納さんを見つめた。



「……」


「……」


 しかし二人が帰ったあとは、にっちもさっちもいかない雰囲気が店内に垂れ込めた。