人数分のコーヒーと、ミルクとガムシロップを入れた籠を持って行くと、この間ズバリ『美味しくない』と言った元樹君がおいおいと泣きついてきた。


 こういうところは相変わらず可愛らしいなと渉は思う。それはそれ、これはこれとして場面を切り替えることのできる彼のほうが、よっぽど大人だと思い知らされる部分でもある。


 ……ある一点ではかなり恋愛偏差値は低いけれど。でも、何か欠点がないと、人間、可愛げがない。


 と、思うことにしようと思う。けっして根に持っているわけではない。


 渉も最近、淹れたコーヒーが美味しくないと思うことしばしばだ。梅雨のせいで豆の味が若干落ちているわけではないのはわかっている。原因は、自分の中にある。


「はは。じゃあ野乃ちゃんが、はっきり言ってあげたらどうだろう?」


「てことは、渉さんもわかって……? え、じゃあもしかして、嘉納も?」


「うん、まあ一応ね」


「……うん。私もわかってる。たぶん、わからないのは汐崎君だけというか」


「――なにっ?」


 渉を見て、野乃を見て、もう一度渉を見てから嘉納さんを見た元樹君は、一人、戦慄の表情を浮かべる。