幻想みたいなことをふと思ってしまった。


「……」


 けれど当然、そんな気配は一つもない。それ以前に、渉には霊感なんてない。


 すっかり冷めきってしまったカツをモソモソと食みながら、野乃が決死の形相で言っていた台詞が頭の中をぐるぐると駆け巡った。


 渉のほうこそ隠しごとがあるんじゃないか、僧侶のようにストイック、誰にも本当のところはわからないまま、どうしてここでコーヒー店を営んでいるのか、それは誰にも言いたくないことだからなんじゃないのか。


 傷つけたかったわけじゃない。追い出したいわけじゃない。だって、こんなにも食事が味気ない。


 ただ、野乃には笑った顔が一番似合うから。笑ってほしいから、そのためには胸の奥底に深く深く刺さった棘をちゃんと抜いてやらなきゃいけないと思った。


「何をやってるんだ、俺は……」


 ふと気づくと、外から微かに雨音が店内に入り込んできていた。


 夕方だけは晴れたけれど、どうやら今日は恋し浜は雨に降られる日らしい。