改めて自分でも声に出して、本当にそうだな、と渉は思った。自分のことは言わないで野乃の話だけを聞かせてくれというのは、あまりにも一方的すぎる。


 でも、不思議なことが起こった、こんな日なら。もしかしたら野乃も話す気になってくれるかもしれないと思ったのも本当だった。


 もう会えなくなってしまった珠希さんと弘人さんの切なすぎる境遇に感化されたというわけではないけれど、あるいは、もしかしたら、と。そんな淡い期待を抱いてしまったのもまた、事実だった。


「……どうしたらいいんだろう」


 渉なら聞かないでいてくれると安心してここに身を寄せてくれていたのに。やっとお互いにいい距離感ができてきたのに。あんなに怒らせて、失望させて。


「全部、台無しにした……」


 両手で頭を抱えて、今さらな後悔をする。でもあのときは確かに、今しか聞くタイミングはないと思った。それはまるで、何かに突き動かされるようで……。


 はっとして、店の中をきょろきょろと見回す。


 まだ近くに弘人さんがいて、珠希さんや拓真君をなんとか明日へ向かわせるついでに、抱えたものをお互いに胸の中にしまい込んでいるままの自分たちに何かきっかけを与えてくれようとしたんじゃないか――なんて。