「ここで会ったのは偶然って言葉で片づけられるだろうけど、弘人さんのカップに残った砂糖は、あまりにも現実的すぎる。拓真君が店に入ってきたときにドアベルの音を聞き逃してしまったんだけど、きっと鳴らなかったんだと思うんだ。だから弘人さんも、この店に一緒に入ってきたんだよ。変わろうとしている珠希さんを見てもらって、拓真君にも、変わっていいんだって思ってもらいたかったから。――とかね」


 厳しいこじつけかな?


 渉が苦笑混じりに頭の後ろを掻くと、野乃がふるふると首を振った。


「いえ。私よりよっぽど素敵なこじつけです」


「はは。だといいんけど。……でも、弘人さんにも俺たちにも、珠希さんたちにできることは、もうここまでなんだと思うんだ。弘人さんみたいに、二人とももう大丈夫だって思いながら心の中に留めておくことしかできないんだと思う。これは俺の勝手な想像なんだけど、もしまた拓真君がここに来てくれることがあったら、そのときはちゃんとベルが鳴ると思う。――それで野乃ちゃんの質問の答えにして大丈夫?」


 そう尋ねると、溶け残った砂糖に目を落としていた野乃が顔を上げた。


「はい。すごくいい答えをもらいました……!」