もちろん野乃にもだ。彼女は何に立ち止まっているのだろうか。


「まあいいや。今は親父の漁を手伝うのに夢中で、誰が好きとか、そういうのはあんまり考えらんないし。すみません、渉さん、今日も長居しちゃって。そろそろ帰りますね」


「ああ、うん。こっちこそ引き留めちゃってごめんね。いつでも遊びに来て」


「はい。カフェオレ、ごちそうさまでした。あったまりました」


 そう言って席を立つ元樹君を送り出す。彼は最後に野乃に向けて「また明日な」と笑ってドアベルを鳴らして帰っていった。


 残ったのは、当たり前だが渉と野乃だ。そろそろ空いたカップを片づけようと、渉も傍らに置いた銀盆を手に、席を立つことにする。


「そういえば、渉さん。拓真さんは大丈夫なんでしょうか?」


 カチャカチャとカップを洗っていると、野乃がこちらに顔を向けた。


 自分のせいで亡くなってしまったと気に病み、ずっと弘人さんの格好を真似続けている拓真君が気がかりなのは、渉も同じだ。


 珠希さんだって、そのことを気にかけていた。