納得したのか、いないのか。そう言って元樹君はちらりと野乃の横顔を窺う。野乃はまだ薄っすらと空に架かる虹を見ていて、ちょうど顔の正面に薄茜の西日を浴びていた。


 瞬きをするごとに薄らいでいく虹を見つめながら、野乃は今、何を思っているのだろうか。元樹君が再び窓の外に目を向けたので、渉もなんとなくそちらを見てしまった。


 きっと元樹君は、まだキラキラしすぎているのだろう。


 眩いくらいにピカピカ光っていて、真っすぐな感情を持っていて、当たり前のように〝告う〟選択肢を口にできる。だからこそ野乃も救われている部分があるように思う。


 それでいい。それが彼の魅力だ。


「そんな恋をすればわかるよ」


 野乃が言った。


 その声はもうバカになんてしていなくて、ただ純粋に野乃の心からの言葉のように聞こえる。しかし渉には、そこに切なさも潜んでいるように聞こえた。


 できることなら元樹君にはわかってほしくない恋の形だと。そう、静かに訴えているようにも聞こえたのだ。


 渉だって彼にはつらい思いをしてほしくはない。一度、失くした恋に立ち止まってしまったら、再び歩き出すまでに相当の勇気と覚悟と、それから長い時間が必要だから。