「そりゃそうでしょ。汐崎君だって、私の知らないところでいろいろ考えることもあるでしょ? それと同じことだよ。たまたま、強引でもいいからこじつけられる材料があったことと、珠希さんが私がでっち上げたこじつけを〝自分の解釈次第〟って言ってくれる人柄をしてただけで、本当は上手くいく自信なんてちっともなかったし」


 そう言って手のひらを握り込む野乃の手が微かに震えていることに、今さらになって渉はようやく気づいた。


 一か八かの賭けだったんだろう、どう転ぶかは未知数で怖かったんだろうと思うと、野乃のその小さな体を無性に抱きしめてやりたくなる。


 幼稚園児の頃よりはだいぶ大きくなったが、おそらく野乃の体格は平均よりやや小ぶりなように思う。


 その体で珠希さんが抱える失くした恋に向かっていった野乃を思うと、抱きしめたくなるのもそうだけれど、自分が淹れたコーヒーで早く「美味しい」と心から笑ってもらいたい気持ちが、自然と胸の奥から湧き起こってくる。


 相変わらず元樹君に対してはドライな口調を崩さないけれど、気を張らずに接せられる相手だからこそ、野乃はそんな言い方ができるのだろう。