野乃は礼儀正しいし、きちんとしているし、お互いにいい感じの距離感が掴めたら、きっともっと、うまくやっていけるだろう。


「でもあの、本当に迷惑になったら、遠慮なく追い出してください。無理に下宿させてもらっちゃってるし、その……彼女さんとか、ここに呼びにくいと思うし」


「え」


「……え。います、よね?」


「いや、いないけど」


「あっ。ご、ごめんなさい」


「……いや。なんか、こっちこそごめん」


 というか、一体俺たちは何について謝り合っているんだろう。ふとそんな疑問が浮かんだ渉は、真っ赤になって俯く野乃を見ていられず、中空に視線をさまよわせる。


 きっと、そういうところまで気を回してしまうから、野乃は前の学校で疲れ果ててしまったんだろう。


 渉にはもう十年も前のことなので今のことはわからないけれど、もっと周囲にわがままでもいいのに、と思う。いや、そういう発想がもう、おじさんなんだろうか。


 いやでも、まだまだ手探りで生活していかなければならない時期に、そんなことまで考えさせてしまうなんて、ここでの保護者としてどうなんだろうという気もする。