これからの珠希さんは、自分なりに解釈した弘人さんの思いを受け継いで人生を歩んでいくのだろう。そんな彼女を少しでも後押しできるように、とびきり美味しいコーヒーを淹れてあげたいと思う。


 弘人さんが淹れたエスプレッソには、きっと勝るものはないだろうけれど。それでも、珠希さんのために。拓真君のために。


 ――そして、弘人さんのために。


「すっかり冷めてしまいましたよね。今、新しいものを淹れます」


 そう言って椅子から立ち上がった渉に、珠希さんが目元を軽く指で拭いながら言う。


「はい、お願いします。エスプレッソ、弘人のぶんも」


「かしこまりました。拓真君や二人はどうします?」


「お代わりで」


「私も」


「俺も」


「はい。エスプレッソ三つに、ホットカフェオレ二つですね」


 渉が笑って頷くと、四人も笑って頷き返した。



 やがて午前中から降り続いていた雨も綺麗に上がった頃、珠希さんと拓真君は渉たちに何度も頭を下げて店をあとにしていった。


 店内から見える窓の外の木々には、薄日が差してキラキラと輝く雨の残りが、緩やかに吹く風に乗ってきらめいている。