「弘人さん、珠希の背中は遠いな、ってよく仕事の合間にこぼしてたんですよ。それも俺にはよく意味がわからなかったんですけど、弘人さん、妙なところで押しが弱いっていうか、自分以外の人のことも考えちゃうところがあるっていうか。……そういうことなら、辻褄が合います。珠希さんのことが好きなのにどうして付き合わないのかって茶化したときも、困ったように〝俺にはもったいない〟って言って笑うんです。俺、男なんで、今なら弘人さんが一歩を踏み出せなかった気持ちがわかります。ビビりますよ、正直。その先生がどうこうってわけじゃないんですけど、なんかこう、男として戦う前から負けた、みたいな気持ちって、やっぱり持ってしまうところがあるんですよ」
「……そうですね。僕にもわかります、変なプライド意識というか」
やや早口でそう言った拓真君に視線を送られて、渉も正直な気持ちを打ち明ける。
本来はただお客様の話に相づちを打つだけだけれど、今回も踏み込んだ話だ。
そして野乃の手によって、わからなかったことが、少しずつわかろうとしている。
「……そうですね。僕にもわかります、変なプライド意識というか」
やや早口でそう言った拓真君に視線を送られて、渉も正直な気持ちを打ち明ける。
本来はただお客様の話に相づちを打つだけだけれど、今回も踏み込んだ話だ。
そして野乃の手によって、わからなかったことが、少しずつわかろうとしている。