けれどそれはその人たちにとって本当にいいことなのかどうか、急にわからなくなってしまったのだ。


 店の噂を聞いて立ち寄ってくれることは嬉しい。渉が淹れたコーヒーを飲んで、美味しいと笑ってくれるその顔があるから、なんとかここでやっていけてもいる。


 しかし裏を返せば、珠希さんや拓真君のように、渉がコーヒーを淹れるせいで、そのどうにもならない想いを助長させてしまうだけなのではないかと、ふと思い至ったのだ。


 もしそれが本当なら、ここで店をやっている意味は……?


 考えると、頭が真っ白になってしまった。


「――それでいいんですよ」


 しかしそこで、柔らかな、けれど凛とした野乃の声が静かに響いた。見ると野乃は珠希さんと拓真君にそれぞれ微笑みかけ、何がいいの? と瞳を揺らす彼女に再度微笑みを深くする。


 この前のように野乃だからこそ気づけた何かがあるのだろうか。藁にも縋る思いとはこのことかもしれない。野乃の声に必死に耳を傾けている渉が、そこにはいた。


「拓真さん。弘人さんのことで伝えなきゃいけないことって、何だったんですか?」