過敏になりすぎて逆に下心が(渉はそんなつもりはないが)あるような言い方になっては野乃にも叔父夫婦にも失礼だけれど、あまり淡泊に言いすぎてもいけない。 冷たい人だと思われたら、この下宿生活は野乃にとって苦痛でしかなくなってしまう。


 そのあたりのさじ加減が渉にはさっぱりだが、野乃が少し笑ってくれたので、今の言い方は下品でも下心があるでも、淡泊でも冷たくもなかったらしい。


 何はともあれ、よかった。


「あの、お父さんたちに言われて、わざわざ登校初日に間に合うように制服を用意してくれたんですよね。こっちでの転校手続きも、登下校に使う自転車も、全部渉さんが準備してくれたって聞きました。重ね重ねありがとうございます。助かりました」


「あ、いえいえ。俺は言われた通りにしただけだから」


「でも、迷惑……でしたよね」


「そんなふうに思ってたら、最初に断ってるよ」


 不安そうに瞳を揺らす野乃に、渉はにっこりと眼鏡の奥の目を細める。


 迷惑に思っていないのは本心だ。


 急に下宿の話をもらったので、その点でだいぶ、どうしようと思っただけで、いざこうして野乃がここに来てみれば、思ったよりなんとかなりそうだという気がしている。