◆
彦星が祈って
◆
「乱華ぁ~早く早く~!」
「そんなに急がなくても、プラネタリウムは逃げないから。」
我先に、と燻息梟仔(クスイ キョウコ)は、はしゃぎながら手招きする。
そんな親友の姿を可愛いなーと思いつつ、靄埼乱華(アイサキ ランカ)は苦笑する。
「そんなに急いだら転ぶぞー。」
「右凍、それ父親みたいだぜ?」
乱華と梟仔の少し後を歩く2人。
父親の様に見守る絡桔右凍(カラキ ユウシ)と、そんな右凍にお腹を抱え笑らう反番獺行(ソツガイ タツユキ)。
4人は現在高校2年生。
乱華と右凍、梟仔と獺行は共に恋人同士で、所謂ダブルデート中である。
無事終わった期末試験最終日の今日、右凍の「星が見たい」という突然の思いつきにより4人はプラネタリウムへと繰り出していた。
最初は、「もうすぐ七夕なのに、人工の星~?!」と言っていた梟仔もプラネタリウムがある科学館に近付くにつれてこんな状態。
なんだかんだ言って、梟仔も楽しみらしい。
科学館に着いた4人は、入館料を支払い席に着く。
上映まで時間があると、早速お喋りが始まった。
◆
「ねっ、時期的に織姫と彦星だよね!あたしああゆうラブロマ大好き!」
「梟仔はロマンチストだからなぁ。」
「獺行も負けてないよ。」
「もぅ!あたしは乱華に言ったんだけど?!ねえ、乱華は?」
梟仔は真後ろの乱華に話し掛けたはずが、隣の獺行と右凍に突っ込まれて少しご立腹だ。
「織姫と彦星?私も好きだよ。ラブロマっていうよりは、1年に1回しか会えないところに惹かれるね。」
「だよね!あたしも。」
「はぁ?会えんの年一とかありえねー!?」
「獺行、物語だから。」
「そうよ。物語だからいいんじゃない!現実的じゃないところが!女心が解ってないなぁ~獺行は!」
一人物語と現実がごっちゃになる獺行には、乱華と梟仔の様な複雑な乙女心は理解出来ないようだ。
ただ、そんな乙女心にサラッと理解を示している右凍は、獺行の一歩先をいっているのだろうか。
「いいんじゃない?ちゃんと現実を見てくれてるってことでしょ。」
「そっ!その通り!靄埼良いこと言うじゃん!」
「も~乱華は甘いよ~。甘甘だよ~。」
「ほんと。調子の良い奴だ。」
◆
――ただいまより上映を開始致します。
乱華が獺行のフォローをしたところで、上映開始のアナウンスが流れる。
「お!いよいよだな!」
「獺行、なんか緊張してない?」
「久しぶりだからな。」
滅多に見ない獺行の姿勢を正す姿に、右凍は可笑しくなる。
「ほんと。いつぶりだっけ?」
「う~ん……多分、去年の校外学習以来だと思うよ。梟仔とも右凍ともあれ以来、来たことないし。」
「そっかー。去年かぁ。あの頃が懐かしいな。」
「え~?なんでなんで?」
しみじみ言う右凍に、梟仔は興味を示す。
「いや、大したことはないんだけどさ。そん時は、乱華と付き合えるとか、燻息と友達になるとか思ってなかったからさ。」
「あ~確かにそうかも!」
「右凍、俺入ってないんだけど?」
「あー、お前は悪友だ。」
「ちょ、悪かよ!」
「みんな、始まるよ。」
「おっ!見るか!」
昭明が落ち暗くなったが、周りを含めまだガヤガヤとしている。
しかし、ナレーションと共に映像が映し出された途端、それはピタリと止んだ。
◆
七夕伝説では、こと座のベガは織姫、わし座のアルタイルは彦星と呼ばれています。
2人は愛し合い、やがて結婚をし、めでたく夫婦となりました。
しかし、結婚をする前は働き者だった2人が、結婚をしてからの生活が楽しすぎて、ついには働かなくなってしまいました。
そのことに怒った神様である天帝は、渡る事の決して出来ない天の川で2人を引き離してしまいます。
逢うのが許されたのは、一年に一度。
天帝の命を受けたカササギが、天の川に橋を架けてくれます。
それが、7月7日なのです。
この日は、織姫と彦星の願いが神様によって叶う日。
人間もそれに肖ろうと、古来より神聖なものとして扱われてきた笹に、祈りを込めた短冊を飾る様になりました。
さて、皆さんの願い事はなんでしょうか?
七夕に雨が降ると、天の川が増水して渡れなくなってしまいます。
これを人々は、催涙雨と呼んでいます。
しかし、今年の七夕は晴れの予報。
夜空で織姫と彦星が逢うことを、星合いと言います。
星と星が逢える様に、皆さんの願いも叶うといいですね。
◆
「乱華。ベガとアルタイルと、後、はくちょう座のデネブが作る三角形を、夏の大三角って言うんだよ。知ってた?」
「…ううん、知らない。右凍は、物知りだね。」
七夕伝説のナレーション中、右凍が問うとややあって乱華は答える。
「そんなこと……あるけど。」
「ふふっ、なにそれ。」
暗がりでも、自慢気に言う右凍の顔が、乱華には見えた気がした。
「あっ、彦星!」
「絡桔くん、声大きいよ~」
「ごめん、ごめん。校外学習ん時、すぐに見付けられなかったからさ、ついね。」
「ったく…、あの時と同じじゃねーか。」
映し出された星空で見付けた彦星に、指を指しながら嬉しそうに声をあげた右凍。
梟仔と獺行は、すぐに反応して注意する。
しかし、右凍のはしゃぐ姿を見つめる乱華の意識は、違うところにあった。
「(ごめん、右凍。夏の大三角知ってるよ。だって………あの後、調べたんだから。)」
決して嘘を付いたのではない。
ただ、右凍が知らないだけ。
ただ、乱華が臆病だっただけ。
鮮明に思い出せる
右凍が知らない
乱華だけの秘密の物語
◆
織姫が願うと
◆
1年程前、入学して間もない乱華達1年生は、校外学習でプラネタリウムに来ていた。
「ほら、早く席に着きなさーい!」
纏まりのない生徒達に向かって、もうすぐ始まると担任は声をあげる。
「乱華は、プラネタリウムに来たことある?」
「ううん、ないよ。梟仔は?」
「あたしもない!だから楽しみ!」
大人しい乱華も、明るい性格の梟仔のおかげで2人はすぐに仲良くなった。
梟仔の話を聞きながら、乱華はチラリと3列前の席を見る。
そこは隣のクラスで、右凍が獺行と談笑していた。
「絡桔くん、カッコいいよね~。」
「えっ?」
「勉強出来るし、優しいし、イケメンだし。入学早々告られた、って話だし~」
そう言いながら、梟仔ニンマリと笑う。
「あらら~顔赤いよ?」
「か、からかわないでよ……」
「見付ける度に目で追ってるけど、告らないの?」
「告っ………。わ、私にはそんなこと………見ているだけで十分だよ。私みたいなのに、優しくしてくれたなんて奇跡だし。」
「(卑屈っ!乱華は、十分可愛い部類なんだけどな~)」
◆
清楚な雰囲気と大人しい性格、顔も悪くない。
乱華に対する、梟仔の第一印象はこうだった。
実際男子の間では、結構上位ランクらしい。
しかし、本人が自覚せず受け止め方が卑屈だと、何事も上手くいかないのだろう。
きっとこれまでも。と梟仔は分析してみる。
「こら、静かにしなさーい!」
昭明が落とされても上映が始まっても、一向に話し声が止まない生徒に担任は注意する。
が、その声が一番大きいだろ、と屁理屈を言う男子がいたものだから効果があるのかは不明だ。
上映も進み、アナウンスのおかげで学生達の話し声はほとんど無くなって周りのお客はホッとしていた。
しかし、それも束の間。
天の川が映し出され、ナレーションが七夕伝説を説明し始めると、織姫と彦星の見付け合い合戦が始まった。
「織姫見付けた。」
「あぁ~どこだよ?」
「ほら、そこ。」
「おっ、ほんとだ。んで、彦星はどこだ?」
「天の川の反対にいるはずなんだけど………」
織姫はなんとか見付けられた。
しかし、彦星がなかなか見付け出せない。
◆
「あ、俺みぃーっけ!」
「え?どこ?」
「あれだよ、あれ。」
右凍は、獺行の指差す方向に目を向けた。
「あっ、彦星!」
彦星を指差しながら、思わず立がある。
「そこ!立ち上がるな!」
「すいませーん…」
クスクスと笑いが起きる。
「怒られてやんの。」
「やんの。」
「絡桔、バッカだなぁ~」
「……煩いよ。」
獺行がからかうと、周りも同調したのか囃し立てる。
右凍は注意するも、拗ねたような声色で説得力がない。
「こら男子、騒ぐんじゃない!」
「へいへーい。」
結局、纏めて怒られてしまった。
「周りの馬鹿どもは、と・も・か・く!絡桔くん、子供みたいで可愛いかったね~。はしゃいじゃってさ。」
「うん……」
からかう様に梟仔は言うが、乱華は気にも止めず返事をした。
目が離せなかったから。
一瞬前方に見えた影と
その影が指した彦星と
無邪気な声が聞こえた空間から。
◆
…………けれど、
「(分かってるよ。)」
自分のことなんだから………。
知ろうとするのに、不安で。
知りたいと思うのに、臆病で。
知って欲しいと願うのに、怖くて。
興味がないフリして、心の痛みに押し潰されないように
無関心を決め込む。
はっきりと思い出せるのに。
笑った顔も、怒った顔も
真面目な姿も、ふざけ合ってる姿も
でも、絶対に届かないからと言い聞かせる。
言わなかったんだ、
最初の一歩を。
友達になろうって。
言えなかったんだ、
最後の一押しが。
好きですって。
見ていることさえ出来なくなると思い込んで
私はいつの間にか
口を閉ざしてしまったんだ。
無意識に追う視線だけ残して。
◆
星合は叶うよ
◆
さあ、これまで色々な星が登場しましたが、皆さんのお気に入りの星は見つかりましたか?
地上が明るくなった現在でも、夜空には星が輝いています。
今日登場した星々を、是非探してみて下さいね。
夢の時間もそろそろ終わりと、ナレーションが告げる。
暗く静かだった空間が、明るく賑やかになった。
「ぅ~ん!綺麗だったね~。」
梟仔は少し凝り固まったであろう筋肉を、解すように背伸びをする。
「ああ。星の名前、結構忘れてるもんだよなぁ~感想文書かされるって必死で覚えたのに…」
「一夜漬けならぬ一時間漬け?」
「絡桔くん上手いっ!」
「上手い上手い………って、馬鹿にしてんだろ!この野郎っ!」
「おい、止めろよ。」
右凍と獺行は、座席を挟みじゃれ合う。
端から見れば兄弟のようだ。
「ちょっと2人とも~………全く、ガキよねぇ~」
軽く止めようとするも、聞く耳を持たない2人に梟仔は呆れる。
「乱華もそうおも………乱華?もしかして………泣いてる?」
同意を求めようとして、後ろを振り向いた梟仔は乱華の様子に戸惑う。
◆
「え?靄埼?どうした?」
「乱華、大丈夫?気分でも悪くなった?」
梟仔の声で気付いた、獺行と右凍も心配そうに問い掛ける。
「だ、大丈夫……違うの、違うから………」
大丈夫、違う、と繰り返す。
けれど、いくら涙を拭っても、一向に止まってくれなくて。
気分が悪い訳でも、悲しい訳でもない。
ただ、思い出しただけ。
真っ暗な世界から見上げた、偽りの夜空。
時間を越えて重なって、見えてしまっただけ。
分かってたのに、追い続けた。
そんな一年前の自分を。
見ているだけが精一杯で、
君の隣がいいなんて烏滸がましくて、
けれど、今はこんなに近くで。
付き合えるなんて、
想い合えるなんて、
思ってもみなかったから。
驚かないで、心配しないで。
そう思うのに、いつだって真実は残酷なんだよ。
幸せに、涙が溢れただけなのに
そんな顔をさせてしまうんだから。
彦星が祈って
◆
「乱華ぁ~早く早く~!」
「そんなに急がなくても、プラネタリウムは逃げないから。」
我先に、と燻息梟仔(クスイ キョウコ)は、はしゃぎながら手招きする。
そんな親友の姿を可愛いなーと思いつつ、靄埼乱華(アイサキ ランカ)は苦笑する。
「そんなに急いだら転ぶぞー。」
「右凍、それ父親みたいだぜ?」
乱華と梟仔の少し後を歩く2人。
父親の様に見守る絡桔右凍(カラキ ユウシ)と、そんな右凍にお腹を抱え笑らう反番獺行(ソツガイ タツユキ)。
4人は現在高校2年生。
乱華と右凍、梟仔と獺行は共に恋人同士で、所謂ダブルデート中である。
無事終わった期末試験最終日の今日、右凍の「星が見たい」という突然の思いつきにより4人はプラネタリウムへと繰り出していた。
最初は、「もうすぐ七夕なのに、人工の星~?!」と言っていた梟仔もプラネタリウムがある科学館に近付くにつれてこんな状態。
なんだかんだ言って、梟仔も楽しみらしい。
科学館に着いた4人は、入館料を支払い席に着く。
上映まで時間があると、早速お喋りが始まった。
◆
「ねっ、時期的に織姫と彦星だよね!あたしああゆうラブロマ大好き!」
「梟仔はロマンチストだからなぁ。」
「獺行も負けてないよ。」
「もぅ!あたしは乱華に言ったんだけど?!ねえ、乱華は?」
梟仔は真後ろの乱華に話し掛けたはずが、隣の獺行と右凍に突っ込まれて少しご立腹だ。
「織姫と彦星?私も好きだよ。ラブロマっていうよりは、1年に1回しか会えないところに惹かれるね。」
「だよね!あたしも。」
「はぁ?会えんの年一とかありえねー!?」
「獺行、物語だから。」
「そうよ。物語だからいいんじゃない!現実的じゃないところが!女心が解ってないなぁ~獺行は!」
一人物語と現実がごっちゃになる獺行には、乱華と梟仔の様な複雑な乙女心は理解出来ないようだ。
ただ、そんな乙女心にサラッと理解を示している右凍は、獺行の一歩先をいっているのだろうか。
「いいんじゃない?ちゃんと現実を見てくれてるってことでしょ。」
「そっ!その通り!靄埼良いこと言うじゃん!」
「も~乱華は甘いよ~。甘甘だよ~。」
「ほんと。調子の良い奴だ。」
◆
――ただいまより上映を開始致します。
乱華が獺行のフォローをしたところで、上映開始のアナウンスが流れる。
「お!いよいよだな!」
「獺行、なんか緊張してない?」
「久しぶりだからな。」
滅多に見ない獺行の姿勢を正す姿に、右凍は可笑しくなる。
「ほんと。いつぶりだっけ?」
「う~ん……多分、去年の校外学習以来だと思うよ。梟仔とも右凍ともあれ以来、来たことないし。」
「そっかー。去年かぁ。あの頃が懐かしいな。」
「え~?なんでなんで?」
しみじみ言う右凍に、梟仔は興味を示す。
「いや、大したことはないんだけどさ。そん時は、乱華と付き合えるとか、燻息と友達になるとか思ってなかったからさ。」
「あ~確かにそうかも!」
「右凍、俺入ってないんだけど?」
「あー、お前は悪友だ。」
「ちょ、悪かよ!」
「みんな、始まるよ。」
「おっ!見るか!」
昭明が落ち暗くなったが、周りを含めまだガヤガヤとしている。
しかし、ナレーションと共に映像が映し出された途端、それはピタリと止んだ。
◆
七夕伝説では、こと座のベガは織姫、わし座のアルタイルは彦星と呼ばれています。
2人は愛し合い、やがて結婚をし、めでたく夫婦となりました。
しかし、結婚をする前は働き者だった2人が、結婚をしてからの生活が楽しすぎて、ついには働かなくなってしまいました。
そのことに怒った神様である天帝は、渡る事の決して出来ない天の川で2人を引き離してしまいます。
逢うのが許されたのは、一年に一度。
天帝の命を受けたカササギが、天の川に橋を架けてくれます。
それが、7月7日なのです。
この日は、織姫と彦星の願いが神様によって叶う日。
人間もそれに肖ろうと、古来より神聖なものとして扱われてきた笹に、祈りを込めた短冊を飾る様になりました。
さて、皆さんの願い事はなんでしょうか?
七夕に雨が降ると、天の川が増水して渡れなくなってしまいます。
これを人々は、催涙雨と呼んでいます。
しかし、今年の七夕は晴れの予報。
夜空で織姫と彦星が逢うことを、星合いと言います。
星と星が逢える様に、皆さんの願いも叶うといいですね。
◆
「乱華。ベガとアルタイルと、後、はくちょう座のデネブが作る三角形を、夏の大三角って言うんだよ。知ってた?」
「…ううん、知らない。右凍は、物知りだね。」
七夕伝説のナレーション中、右凍が問うとややあって乱華は答える。
「そんなこと……あるけど。」
「ふふっ、なにそれ。」
暗がりでも、自慢気に言う右凍の顔が、乱華には見えた気がした。
「あっ、彦星!」
「絡桔くん、声大きいよ~」
「ごめん、ごめん。校外学習ん時、すぐに見付けられなかったからさ、ついね。」
「ったく…、あの時と同じじゃねーか。」
映し出された星空で見付けた彦星に、指を指しながら嬉しそうに声をあげた右凍。
梟仔と獺行は、すぐに反応して注意する。
しかし、右凍のはしゃぐ姿を見つめる乱華の意識は、違うところにあった。
「(ごめん、右凍。夏の大三角知ってるよ。だって………あの後、調べたんだから。)」
決して嘘を付いたのではない。
ただ、右凍が知らないだけ。
ただ、乱華が臆病だっただけ。
鮮明に思い出せる
右凍が知らない
乱華だけの秘密の物語
◆
織姫が願うと
◆
1年程前、入学して間もない乱華達1年生は、校外学習でプラネタリウムに来ていた。
「ほら、早く席に着きなさーい!」
纏まりのない生徒達に向かって、もうすぐ始まると担任は声をあげる。
「乱華は、プラネタリウムに来たことある?」
「ううん、ないよ。梟仔は?」
「あたしもない!だから楽しみ!」
大人しい乱華も、明るい性格の梟仔のおかげで2人はすぐに仲良くなった。
梟仔の話を聞きながら、乱華はチラリと3列前の席を見る。
そこは隣のクラスで、右凍が獺行と談笑していた。
「絡桔くん、カッコいいよね~。」
「えっ?」
「勉強出来るし、優しいし、イケメンだし。入学早々告られた、って話だし~」
そう言いながら、梟仔ニンマリと笑う。
「あらら~顔赤いよ?」
「か、からかわないでよ……」
「見付ける度に目で追ってるけど、告らないの?」
「告っ………。わ、私にはそんなこと………見ているだけで十分だよ。私みたいなのに、優しくしてくれたなんて奇跡だし。」
「(卑屈っ!乱華は、十分可愛い部類なんだけどな~)」
◆
清楚な雰囲気と大人しい性格、顔も悪くない。
乱華に対する、梟仔の第一印象はこうだった。
実際男子の間では、結構上位ランクらしい。
しかし、本人が自覚せず受け止め方が卑屈だと、何事も上手くいかないのだろう。
きっとこれまでも。と梟仔は分析してみる。
「こら、静かにしなさーい!」
昭明が落とされても上映が始まっても、一向に話し声が止まない生徒に担任は注意する。
が、その声が一番大きいだろ、と屁理屈を言う男子がいたものだから効果があるのかは不明だ。
上映も進み、アナウンスのおかげで学生達の話し声はほとんど無くなって周りのお客はホッとしていた。
しかし、それも束の間。
天の川が映し出され、ナレーションが七夕伝説を説明し始めると、織姫と彦星の見付け合い合戦が始まった。
「織姫見付けた。」
「あぁ~どこだよ?」
「ほら、そこ。」
「おっ、ほんとだ。んで、彦星はどこだ?」
「天の川の反対にいるはずなんだけど………」
織姫はなんとか見付けられた。
しかし、彦星がなかなか見付け出せない。
◆
「あ、俺みぃーっけ!」
「え?どこ?」
「あれだよ、あれ。」
右凍は、獺行の指差す方向に目を向けた。
「あっ、彦星!」
彦星を指差しながら、思わず立がある。
「そこ!立ち上がるな!」
「すいませーん…」
クスクスと笑いが起きる。
「怒られてやんの。」
「やんの。」
「絡桔、バッカだなぁ~」
「……煩いよ。」
獺行がからかうと、周りも同調したのか囃し立てる。
右凍は注意するも、拗ねたような声色で説得力がない。
「こら男子、騒ぐんじゃない!」
「へいへーい。」
結局、纏めて怒られてしまった。
「周りの馬鹿どもは、と・も・か・く!絡桔くん、子供みたいで可愛いかったね~。はしゃいじゃってさ。」
「うん……」
からかう様に梟仔は言うが、乱華は気にも止めず返事をした。
目が離せなかったから。
一瞬前方に見えた影と
その影が指した彦星と
無邪気な声が聞こえた空間から。
◆
…………けれど、
「(分かってるよ。)」
自分のことなんだから………。
知ろうとするのに、不安で。
知りたいと思うのに、臆病で。
知って欲しいと願うのに、怖くて。
興味がないフリして、心の痛みに押し潰されないように
無関心を決め込む。
はっきりと思い出せるのに。
笑った顔も、怒った顔も
真面目な姿も、ふざけ合ってる姿も
でも、絶対に届かないからと言い聞かせる。
言わなかったんだ、
最初の一歩を。
友達になろうって。
言えなかったんだ、
最後の一押しが。
好きですって。
見ていることさえ出来なくなると思い込んで
私はいつの間にか
口を閉ざしてしまったんだ。
無意識に追う視線だけ残して。
◆
星合は叶うよ
◆
さあ、これまで色々な星が登場しましたが、皆さんのお気に入りの星は見つかりましたか?
地上が明るくなった現在でも、夜空には星が輝いています。
今日登場した星々を、是非探してみて下さいね。
夢の時間もそろそろ終わりと、ナレーションが告げる。
暗く静かだった空間が、明るく賑やかになった。
「ぅ~ん!綺麗だったね~。」
梟仔は少し凝り固まったであろう筋肉を、解すように背伸びをする。
「ああ。星の名前、結構忘れてるもんだよなぁ~感想文書かされるって必死で覚えたのに…」
「一夜漬けならぬ一時間漬け?」
「絡桔くん上手いっ!」
「上手い上手い………って、馬鹿にしてんだろ!この野郎っ!」
「おい、止めろよ。」
右凍と獺行は、座席を挟みじゃれ合う。
端から見れば兄弟のようだ。
「ちょっと2人とも~………全く、ガキよねぇ~」
軽く止めようとするも、聞く耳を持たない2人に梟仔は呆れる。
「乱華もそうおも………乱華?もしかして………泣いてる?」
同意を求めようとして、後ろを振り向いた梟仔は乱華の様子に戸惑う。
◆
「え?靄埼?どうした?」
「乱華、大丈夫?気分でも悪くなった?」
梟仔の声で気付いた、獺行と右凍も心配そうに問い掛ける。
「だ、大丈夫……違うの、違うから………」
大丈夫、違う、と繰り返す。
けれど、いくら涙を拭っても、一向に止まってくれなくて。
気分が悪い訳でも、悲しい訳でもない。
ただ、思い出しただけ。
真っ暗な世界から見上げた、偽りの夜空。
時間を越えて重なって、見えてしまっただけ。
分かってたのに、追い続けた。
そんな一年前の自分を。
見ているだけが精一杯で、
君の隣がいいなんて烏滸がましくて、
けれど、今はこんなに近くで。
付き合えるなんて、
想い合えるなんて、
思ってもみなかったから。
驚かないで、心配しないで。
そう思うのに、いつだって真実は残酷なんだよ。
幸せに、涙が溢れただけなのに
そんな顔をさせてしまうんだから。