「ちょっとごめん。もしもし。楓?」



事が終わると、何事もなくベッドから身体を起こし、

そして薬指に指輪を嵌める。

そしてあたし達は会社の上司と部下の普通の関係に戻る。


電話に出る後ろ姿でさえ、別の人に見える。


…分かってる。


この人は必ず終わったら奥さんの元に帰る。

何事もなく、上司としてパパとして普通の家庭に戻る。


この先、何年経ってもあたしとこの人の先に明るい未来なんてあるはずない。




見えないけど



あたし達には、


既婚者と独身


【不倫】

という


太い線がひかれている。


なのにあたしに気づかず宗太郎さんはまだ、嬉しそうに奥さんと電話中だ。



(そんな笑顔…。あたしには見せないくせに。)



なんて心のなかでは思ってても言えない。



「ピッ…ごめん。お待たせ。雨やんだな。そろそろ帰るか。」


そうこれが、あたし達の時間の終わりの合図なんだ。


あたしは、ふとホテルの窓から空を見つめた。


窓を見ると既に雨はやみ、憎たらしいくらいかんかんに空は晴れ太陽が顔を出していた。


(…奥さんから電話来たからでしょ?)

と思っても


「お気をつけて!明日もよろしくお願い致します!」



あたしは咄嗟に切り替える。



さっきまで宗太郎さんに対しての愛してるとゆう感情の傘をだだっぴろく開けたのに、


太陽が出たなら傘はいらない。


しまわないといけない。



だから私はその広げた傘を静かに畳むように自分の気持ちに蓋をする。

もっと一緒にいて欲しい。

…なんてそんな図々しい事言えないから。
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