☆☆☆

文字が読めなくなったことを、あたしは両親に伝えていなかった。


そんなことがバレるとどんなことを言われるかわからない。


そんな恐怖心があったからだった。


「勉強はどうだ」


翌日の朝、相変わらずの調子で父親がそう聞いて来た。


視線はあたしには向けられておらず、広げた新聞へと向いている。


ぼんやりと、そのゆがんだ文字が印刷された新聞をみていると「聞いてるのか」と、強い口調で言われた。


「うん……大丈夫」


あたしはそう言ってウインナーを口に運ぶ。


本当は大丈夫じゃなかった。


文字が読めなくて授業に追いつけなくなってきている。


「青南高校なんだから1位でもいいくらいだぞ」


父親は口癖のようにそう言った。


「わかってる」


あたしは短く返事をすると、半分ほど朝ご飯を残して席を立ったのだった。