あたしは聞こえないふりをして引き出しから教科書を取り出し、ページをめくった。


相変わらず、文字はひどく歪んで見えた。


でも、顔は上げない。


「あれぇ? 菜々花って文字読めたっけ?」


栞奈がそう言い、あたしから許可書を取り上げた。


「ちょっと、返してよ!」


そう言って手を伸ばすと、栞奈はニヤついた笑顔を浮かべてあたしを見下ろした。


「わ……たし……はぁ……」


栞奈があたしのものまねをすると、教室のあちこちから笑い声が起こった。


中には栞奈と同様にものまねをし始める生徒もいる。


あたしはグッと拳を握りしめた。


龍一からの告白を断っただけで、どうしてこんな目にあわないといけないんだろう。


不覚にも目の奥がジンッと熱くなってしまい、必死に涙を我慢した。