風船には徐々に空気が入りはじめ、膨らんでいく。


「それなのに、教室で待ってるって言うの」


あたしは手を休めずに、風船に空気を入れていく。


しぼんでいた風船は、今はまぁるくなりはじめていた。


「あたしは教室に戻っても、きっと1人じゃない」


そう言った時、空気が一杯に入った風船があたしの手から離れて行った。


紐の端が結ばれていなかった風船は、青空高くへと舞い上がって行く。


あたしはそれを見上げて、空の眩しさに目を細めた。


「あ~あ、一個飛んでいったな」


健太がそう言い、グリーンの風船に手を伸ばす。


「ごめん」


「いや、風船って元々そういうもんだし」


健太はなんでもないことのようにそう言って、グリーンの風船を膨らませ始めた。


見ると、紐の端っこはちゃんと重しが付けられていて飛んでいかないようにしている。


「健太の風船は、飛んで行かないの?」


そう聞くと、健太は「飛んでいかないよ。ずっとここにいる」と、抑揚のない声で言った。