不意に、逃げ遅れた健太が視界に入った。


方向転換し、健太へ向けて手を伸ばす。


ようやくあたしが近づいてきていることに気が付いた健太が、驚いた表情を浮かべる。


逃げようと右足を出す健太。


けれど、少し遅かった。


あたしの手が健太の肩に触れた……。


え……?


その瞬間、すり抜けていた。


「あっぶねぇ! もう少しで鬼になるところだった!」


唖然として立ち止まるあたしに、健太がゲラゲラと笑いながらそう言った。


「え、ねぇ、今……」


あたしは健太の肩に触れたよね?


そう聞きたかったけれど、聞けなかった。


聞いちゃいけないような気がしたし、自分の思い過ごしだったのかもしれないと思った。


「はいはい、今日の体育はここまで! もう放課後だぞぉ」


工藤先生のそんな言葉が聞こえてきて、今日の授業は終わったのだった。