工藤先生の音読はお世辞にも上手だとは言えなかった。


それでもあたしたちにわかるように、丁寧に一文字ずつ丁寧に読み進めてくれた。


工藤先生の言葉を元に想像を膨らませ、物語の中の情景を頭の中に思い浮かべる。


その作業は文字が読めなくなったあたしにもできることで、気が付けば工藤先生の音読に聞き入っていた。


「もうこんな時間か」


工藤先生の言葉に我に返り、目を開いた。


物語に集中していたあたしは、現実に戻って来るのに少し時間がかかった、。


「今、何時ですか?」


少しぼんやりとした頭で工藤先生にそう聞いた。


「11時半だ」


そう言われてあたしは目を見開いた。


「随分集中してたよなぁ」


健太がそう言って大きく伸びをした。