/*** カスパル=アラリコ・ミュルダ・メーリヒ Side ***/
息子エンリコが、ツクモ殿を襲撃してから、一ヶ月が経過した。
昨日、ビックスロープに向かっていた、交流隊が帰ってきた。何やら興奮していた。
今回は、交流というよりも、視察の意味合いが強いのは、誰もが解っていた事だ。ツクモ殿を通して、先方にも伝わっているのだろう。視察は成功した。予定よりも、帰ってくるのが遅かったのが気になったので、長老衆を通して聞いてみた。
思っていた以上に、大きな街になっているという。
行政区として、中央に施設がまとめられていて、壁と堀で囲まれていて、その周りに、商売ができるような建物の建築が始まっている。そして、門は全部で三ヶ所あり、ミュルダ方面、アンクラム方面、サラトガ方面となっている。ブルーフォレスト側にも門が有るようだが、こちらは視察できなかったらしい。森の中に入り込む形の場所があり、その場所が、ブルーフォレストからの入口になっている。
交流という名前の取引が正式に決まった。
儂も、荷物をまとめて、ビックスロープ商業街に移動する事になる。
二人の孫と一緒だ。儂と一緒に移動するのは、孫だけではない。護衛でノービスを雇うことになっている。冒険者見習いの身分で、ツクモ殿も一緒に向かう事になっている。最初は、竜族が迎えに来る事になっていたのだが、ツクモ殿が、どのくらい時間がかかるのかを体感するために、馬車での移動になった。
街が作られた場所は、ミュルダのサイレントヒル側から出て、ヒルマウンテンの頂上を目指して一直線に移動すれば到着できるようだ。ツクモ殿の計画では、わかりやすい道標を作ることになっている。
「クリス。準備はできたのか?」
「はい。お祖父様。僕の準備はできました。リーリアお姉ちゃんが全部持っていってくれます」
「そっそうか?アーモスはどうしている?」
「え?知りません。僕は、リーリアお姉ちゃんとカイお兄ちゃんとウミお姉ちゃんと、すぐに使いそうな物を分けていました。イサークさんやピムさんが、アーモスの様子を見てくれていると思いますよ」
クリスは、完全に割り切っているように思える。違うな、父親を切り捨てたのだ。
エンリコ達は、すぐにツクモ殿の眷属だろうか?魔蟲に縛られて、連れて行かれた。その後の事は、儂も聞かされていない。クリスはなにか知っているかも知れないが、話に出さないようにしているようだ。
「お祖父様!」
「あぁすまん。それで、ツクモ殿はどうされている?」
「今日は、カイお兄ちゃんと、ウミお姉ちゃんと、ミュルダの街を散歩するって言っていたよ」
「そうか、クリスには、リーリア殿が付いているのか?」
「そうだよ?ナーシャお姉ちゃんも最初は来るって言っていたけど、イサークさんに連れて行かれたよ」
あれから、ツクモ殿と膝を突き合わせて、話をした。
エンリコの件は、ツクモ殿から、建設的な意見にならないうえに既に謝罪を頂いたから、これ以上の謝罪は必要ないと言われた。
「そうか、クリスは、ビックスロープでの生活でいいのか?」
「うん。まだ早いよ。カズトお兄ちゃんが、来ていいよっていうまで我慢する」
「そうか、すまんな。クリス」
「ううん。お祖父様のおかげで、僕は、カズトお兄ちゃんに会えた。それは間違いないよ。それに、僕、今すごく楽しいよ。なんでも、自分で決めていいのでしょ?」
「あぁそうだ。クリス。お前の人生だ、好きに過ごせ」
「本当?お祖父様。僕、学園街に行きたい!」
学園街。
確かに、前のクリスなら無理だったが、ツクモ殿から、スキルの隠蔽を施されたクリスなら可能かも知れない。
成人前の子供に勉学を教える場所で、16歳になるまで通う事ができる。エンリコも通わせた。ただ、今にして思えば、もしかしたら、学園街で、アトフィア教に触れて、信者になったのかも知れない。
「わかった。でも、クリス。お前の身分は、ツクモ殿預かりになっている。ツクモ殿が承諾する事が条件だがよいか?」
「もちろん。カズトお兄ちゃんがダメって言ったら諦める」
「儂から、ツクモ殿に打診しよう」
「お祖父様。おねがい。でも、無理しなくていいからね」
「あぁ解っておる」
執務室に向かった。執事に頼んでいるが、最終的な確認は、儂がしないとならない。ミュルダに置いていく物と、儂の私物を分けてもらっている。ミュルダのに残していく物は、次の領主に渡す資料にまとめていく。
クリスは、もう大丈夫だろう。準備もできているようだ。
問題は、アーモスだ。父親と母親を失ったのだ。両者とも、アーモスには優しかった。
母親は、エンリコの屋敷で首を絞められて殺されていた。
エンリコが殺したと考えていいだろう。アーモスの目の前で殺したと、メイドが証言している。
「お祖父様」
消えそうな声で、儂を呼びに来た。
「アーモス。どうした?」
「お祖父様。お父様は、どうして、お母様を・・・どうして、僕を残して・・・お姉さまは化物なのですか?」
「えぇそうよ」
アーモスの後ろから、クリスが出てきた。
「アーモス。貴方のお姉さまは”化物”なの。お父様にそう育てられてしまったの。だから、お父様のお考え通り、化物になったわ」
「お姉さま」
「でもね。アーモス。私は、私よ。今までと何も変わらないわ」
「お姉さま。それは?」
「いい。アーモス。貴方は、私の様にならないでね。お父様は、勘違いされていたのよ」
「かんちがい?」
「そう、誰でも”化物”になれるのよ。私のようにね。アーモス。お父様は、私に化物になってほしかったのよ」
「え?」
「お父様にとって、私は、”化物”でなければならなかったのよ。いい。アーモス。人は、何にでもなれるのよ。だから、貴方も、沢山の人を見て、沢山の事を感じて、沢山の事を考えるのよ。私のようにならないためにもね」
「おねえさま?どういう」
クリスは、儂の方を向いた。
「お祖父様」
「なんじゃ?」
「僕、わがままに生きます」
「あぁ」
「カズトさんのお嫁さんになるためにがんばります」
「あぁ・・・え?ん?クリス。この短時間になにがあった?」
クリスのツクモ殿呼び方が、カズトお兄ちゃんから、カズトさんになっている。
それに、お嫁さんって何がどうしたら、短時間でそうなるのか説明して欲しい。ナーシャ辺りの入れ知恵かと思ったが、ナーシャはイサークに連れて行かれて、アーモスの荷造りを手伝っているはずだ。
「アーモス。貴方も自由なのよ?」
「自由?」
「えぇそうよ。お父様やお母様から、言われていたでしょ?」
「はい。ミュルダの領主になるために、勉強しなさい・・・」
「もう、お祖父様もミュルダの領主ではありません。お父様も、お母様もいません。アーモス。貴方は、自分で考えて、行動しなさい」
「え?」
「もう、貴方に命令する人は居ないのよ?アーモス。自由ってそういう事なのよ?」
「お姉さま。僕、自由なんていらない。お父様やお母様が」
「そうね。そう言って、なにかに縋るのもいいでしょう。アーモス!」
クリスが、アーモスの肩を抑える。
「アーモス。耳を塞がない。目をそらさない。もう一度いうわ。お父様もお母様も、貴方に優しい声をかけて、導いてくれた人は、もう居ないのよ。貴方は、1人で考えて、行動しないとならない。それが嫌なら、ミュルダに残って、死ぬまでここで、貴方に優しかったお父様とお母様の事だけ考えていればいいのよ」
クリスは、アーモスに対して、別れの言葉をいいに来たのかもしれん。
「お祖父様」
「なんじゃ?」
「カズトさんへの要請は、僕が、自分で行います。お祖父様は、アーモスとご自分の事だけを考えて下さい。お願いします」
「わかった。でも、いいのか?」
「はい。僕は、僕です。何も変わっていない事がわかっただけです」
そこには、先ほどまでとは違った、女の顔をしたクリスティーネが立っていた。
/*** クリスティーネ=アラリコ・ミュルダ・マッテオ Side ***/
僕は、お祖父様の意図がわからない。
僕に、好きに過ごせといいながら、カズトお兄ちゃんに責任を押し付けるような事を言っている。
お祖父様は、もう疲れてしまったのかも知れない。
『クリス。エンリコをご主人様の実験区に送ります。どうしますか?』
『どうする?そんな人の事よりも、僕は、カズトお兄ちゃんの事を知りたい』
『そうですか?これが最後のチャンスですよ?』
そうか、お父様を殺せる最後のチャンスって事か・・・あんまり興味がないな。
ママを手にかけて殺してしまうような人だから、簡単に死なないで欲しいのだけど、ダメかな?
『リーリアお姉ちゃん。お父様だけど、簡単に死なないようにしてほしいけど、大丈夫かな?』
『大丈夫だと思いますよ。ご主人様は、隷属スキルの実験をされるようですからね』
『隷属?って、奴隷にする時に使う奴?』
『そうですよ?』
『ごめん。僕、隷属スキルの使い方で他に何があるのかわからない』
少し、笑いながら、説明してくれた。
別の人間に隷属している状態で、さらに別の人間に隷属のスキルを使う事ができるのか?
誰かを隷属している状態で、隷属スキルを受けたら、先に隷属している者はどうなるのか?
そんな実験を行うという話だ。
確かに、聞いた事が無い。そもそも、スキルの実験するという発想が今まで生まれてきていなかった。隷属化のスキルカードは、レベル5だ。1枚で宿に連泊できると聞いた事がある。今聞いた実験だけでも、10枚近い枚数の隷属化のスキルカードが必要になる。
その上、僕に固定したように、治療のスキルカードをそれぞれに固定して、死ににくい状況を作るらしい。
魔物にはできる魔核の吸収が、人族にはできないようだ。魔核に付けたスキルカードを発動する事ができるので、それを代用をしているとの事だ。僕なら、魔核の吸収ができるのかな?今度、カズトお兄ちゃんにお願いしようかな?
そうしたら、僕を眷属にしてくれるかな?僕程度じゃ、カズトお兄ちゃんの役に立たないからダメなのかな?
『クリスはこれからどうするのですか?』
『僕?学園街にでも行こうかと思う。勉強して、カズトお兄ちゃんの役に立ちたい』
『そうですか、解りました。クリスは、私やエリンとは違う道を行くのですね』
『え?どういう事?』
『私とエリンは、ご主人様の子を生そうと思っています』
『え?お嫁さんになるの?』
『違います。ご主人様のお情けを貰って、私はドリュアスやエントのために、エリンは竜族のために、ご主人様との繋がりを頂きたいと思っています』
『え?でも、眷属だよね?』
『そうですよ。ご主人様のために、私たちは存在しています。だからこそ、ご主人様のためになんでもします』
うーん
リーリアお姉ちゃんが言っている事がよくわからない。なんで、子供を作る事が、ご主人様のためになるの?
でも解った事もある。なんかヤダ!リーリアお姉ちゃんも、エリンお姉ちゃんも好き。でも、僕はカズトお兄ちゃんの事が好き・・・だと思う。まだ、僕は子供だけど、カズトお兄ちゃんと一緒に居たい!
『僕は、カズトお兄ちゃん・・・ううん。カズトさんと一緒に居たい』
『それなら、伴侶になるか、眷属になるかですよ』
眷属になる・・・それも魅力的だけど・・・。僕は、カズトさんの伴侶になる。眷属ではなく、一緒に居るために、カズトさんのお嫁さんになる。
『僕は、カズトさんのお嫁さんになる。今は、まだ子供だけど、いろんな事を覚えて、カズトさんと一緒に居る』
/*** ??? Side ***/
「奴はどうした?」
「奴?あぁあいつなら、昨日、獣人族の女二人と同衾した状態で、死んでいたぞ」
「そうか、奴も最後に、獣人族を救済できたのなら本望だろう」
「あぁハーフの獣人の女だから、余計に良かったのかも知れないな」
「そうか・・・それで?アンクラムとミュルダはどうなっている?」
「まだだ。後10日程度で報告が上がってくる。それまで待っていろ」
「そうか、なにか解ったら教えてくれ、どうやら、上層部では何か動きが有るようだ」
「ほぉそうなのか?」
「あぁ教皇のご体調がよろしくないようだ」
「それはまた・・・この時期に・・・いや、この時期だからか?」
「あぁ我ら本部の司祭の中から、欠員になっている枢機卿の選出が噂されている」
「・・・そうか、貴様!」
「お互い様だろう?お前も、アンクラムとミュルダの偵察隊の中に、毒婦を忍ばせているではないか?」
「・・・」
「・・・」
男女は睨み合ったまま別れの言葉を口にしないままその場を立ち去った。
息子エンリコが、ツクモ殿を襲撃してから、一ヶ月が経過した。
昨日、ビックスロープに向かっていた、交流隊が帰ってきた。何やら興奮していた。
今回は、交流というよりも、視察の意味合いが強いのは、誰もが解っていた事だ。ツクモ殿を通して、先方にも伝わっているのだろう。視察は成功した。予定よりも、帰ってくるのが遅かったのが気になったので、長老衆を通して聞いてみた。
思っていた以上に、大きな街になっているという。
行政区として、中央に施設がまとめられていて、壁と堀で囲まれていて、その周りに、商売ができるような建物の建築が始まっている。そして、門は全部で三ヶ所あり、ミュルダ方面、アンクラム方面、サラトガ方面となっている。ブルーフォレスト側にも門が有るようだが、こちらは視察できなかったらしい。森の中に入り込む形の場所があり、その場所が、ブルーフォレストからの入口になっている。
交流という名前の取引が正式に決まった。
儂も、荷物をまとめて、ビックスロープ商業街に移動する事になる。
二人の孫と一緒だ。儂と一緒に移動するのは、孫だけではない。護衛でノービスを雇うことになっている。冒険者見習いの身分で、ツクモ殿も一緒に向かう事になっている。最初は、竜族が迎えに来る事になっていたのだが、ツクモ殿が、どのくらい時間がかかるのかを体感するために、馬車での移動になった。
街が作られた場所は、ミュルダのサイレントヒル側から出て、ヒルマウンテンの頂上を目指して一直線に移動すれば到着できるようだ。ツクモ殿の計画では、わかりやすい道標を作ることになっている。
「クリス。準備はできたのか?」
「はい。お祖父様。僕の準備はできました。リーリアお姉ちゃんが全部持っていってくれます」
「そっそうか?アーモスはどうしている?」
「え?知りません。僕は、リーリアお姉ちゃんとカイお兄ちゃんとウミお姉ちゃんと、すぐに使いそうな物を分けていました。イサークさんやピムさんが、アーモスの様子を見てくれていると思いますよ」
クリスは、完全に割り切っているように思える。違うな、父親を切り捨てたのだ。
エンリコ達は、すぐにツクモ殿の眷属だろうか?魔蟲に縛られて、連れて行かれた。その後の事は、儂も聞かされていない。クリスはなにか知っているかも知れないが、話に出さないようにしているようだ。
「お祖父様!」
「あぁすまん。それで、ツクモ殿はどうされている?」
「今日は、カイお兄ちゃんと、ウミお姉ちゃんと、ミュルダの街を散歩するって言っていたよ」
「そうか、クリスには、リーリア殿が付いているのか?」
「そうだよ?ナーシャお姉ちゃんも最初は来るって言っていたけど、イサークさんに連れて行かれたよ」
あれから、ツクモ殿と膝を突き合わせて、話をした。
エンリコの件は、ツクモ殿から、建設的な意見にならないうえに既に謝罪を頂いたから、これ以上の謝罪は必要ないと言われた。
「そうか、クリスは、ビックスロープでの生活でいいのか?」
「うん。まだ早いよ。カズトお兄ちゃんが、来ていいよっていうまで我慢する」
「そうか、すまんな。クリス」
「ううん。お祖父様のおかげで、僕は、カズトお兄ちゃんに会えた。それは間違いないよ。それに、僕、今すごく楽しいよ。なんでも、自分で決めていいのでしょ?」
「あぁそうだ。クリス。お前の人生だ、好きに過ごせ」
「本当?お祖父様。僕、学園街に行きたい!」
学園街。
確かに、前のクリスなら無理だったが、ツクモ殿から、スキルの隠蔽を施されたクリスなら可能かも知れない。
成人前の子供に勉学を教える場所で、16歳になるまで通う事ができる。エンリコも通わせた。ただ、今にして思えば、もしかしたら、学園街で、アトフィア教に触れて、信者になったのかも知れない。
「わかった。でも、クリス。お前の身分は、ツクモ殿預かりになっている。ツクモ殿が承諾する事が条件だがよいか?」
「もちろん。カズトお兄ちゃんがダメって言ったら諦める」
「儂から、ツクモ殿に打診しよう」
「お祖父様。おねがい。でも、無理しなくていいからね」
「あぁ解っておる」
執務室に向かった。執事に頼んでいるが、最終的な確認は、儂がしないとならない。ミュルダに置いていく物と、儂の私物を分けてもらっている。ミュルダのに残していく物は、次の領主に渡す資料にまとめていく。
クリスは、もう大丈夫だろう。準備もできているようだ。
問題は、アーモスだ。父親と母親を失ったのだ。両者とも、アーモスには優しかった。
母親は、エンリコの屋敷で首を絞められて殺されていた。
エンリコが殺したと考えていいだろう。アーモスの目の前で殺したと、メイドが証言している。
「お祖父様」
消えそうな声で、儂を呼びに来た。
「アーモス。どうした?」
「お祖父様。お父様は、どうして、お母様を・・・どうして、僕を残して・・・お姉さまは化物なのですか?」
「えぇそうよ」
アーモスの後ろから、クリスが出てきた。
「アーモス。貴方のお姉さまは”化物”なの。お父様にそう育てられてしまったの。だから、お父様のお考え通り、化物になったわ」
「お姉さま」
「でもね。アーモス。私は、私よ。今までと何も変わらないわ」
「お姉さま。それは?」
「いい。アーモス。貴方は、私の様にならないでね。お父様は、勘違いされていたのよ」
「かんちがい?」
「そう、誰でも”化物”になれるのよ。私のようにね。アーモス。お父様は、私に化物になってほしかったのよ」
「え?」
「お父様にとって、私は、”化物”でなければならなかったのよ。いい。アーモス。人は、何にでもなれるのよ。だから、貴方も、沢山の人を見て、沢山の事を感じて、沢山の事を考えるのよ。私のようにならないためにもね」
「おねえさま?どういう」
クリスは、儂の方を向いた。
「お祖父様」
「なんじゃ?」
「僕、わがままに生きます」
「あぁ」
「カズトさんのお嫁さんになるためにがんばります」
「あぁ・・・え?ん?クリス。この短時間になにがあった?」
クリスのツクモ殿呼び方が、カズトお兄ちゃんから、カズトさんになっている。
それに、お嫁さんって何がどうしたら、短時間でそうなるのか説明して欲しい。ナーシャ辺りの入れ知恵かと思ったが、ナーシャはイサークに連れて行かれて、アーモスの荷造りを手伝っているはずだ。
「アーモス。貴方も自由なのよ?」
「自由?」
「えぇそうよ。お父様やお母様から、言われていたでしょ?」
「はい。ミュルダの領主になるために、勉強しなさい・・・」
「もう、お祖父様もミュルダの領主ではありません。お父様も、お母様もいません。アーモス。貴方は、自分で考えて、行動しなさい」
「え?」
「もう、貴方に命令する人は居ないのよ?アーモス。自由ってそういう事なのよ?」
「お姉さま。僕、自由なんていらない。お父様やお母様が」
「そうね。そう言って、なにかに縋るのもいいでしょう。アーモス!」
クリスが、アーモスの肩を抑える。
「アーモス。耳を塞がない。目をそらさない。もう一度いうわ。お父様もお母様も、貴方に優しい声をかけて、導いてくれた人は、もう居ないのよ。貴方は、1人で考えて、行動しないとならない。それが嫌なら、ミュルダに残って、死ぬまでここで、貴方に優しかったお父様とお母様の事だけ考えていればいいのよ」
クリスは、アーモスに対して、別れの言葉をいいに来たのかもしれん。
「お祖父様」
「なんじゃ?」
「カズトさんへの要請は、僕が、自分で行います。お祖父様は、アーモスとご自分の事だけを考えて下さい。お願いします」
「わかった。でも、いいのか?」
「はい。僕は、僕です。何も変わっていない事がわかっただけです」
そこには、先ほどまでとは違った、女の顔をしたクリスティーネが立っていた。
/*** クリスティーネ=アラリコ・ミュルダ・マッテオ Side ***/
僕は、お祖父様の意図がわからない。
僕に、好きに過ごせといいながら、カズトお兄ちゃんに責任を押し付けるような事を言っている。
お祖父様は、もう疲れてしまったのかも知れない。
『クリス。エンリコをご主人様の実験区に送ります。どうしますか?』
『どうする?そんな人の事よりも、僕は、カズトお兄ちゃんの事を知りたい』
『そうですか?これが最後のチャンスですよ?』
そうか、お父様を殺せる最後のチャンスって事か・・・あんまり興味がないな。
ママを手にかけて殺してしまうような人だから、簡単に死なないで欲しいのだけど、ダメかな?
『リーリアお姉ちゃん。お父様だけど、簡単に死なないようにしてほしいけど、大丈夫かな?』
『大丈夫だと思いますよ。ご主人様は、隷属スキルの実験をされるようですからね』
『隷属?って、奴隷にする時に使う奴?』
『そうですよ?』
『ごめん。僕、隷属スキルの使い方で他に何があるのかわからない』
少し、笑いながら、説明してくれた。
別の人間に隷属している状態で、さらに別の人間に隷属のスキルを使う事ができるのか?
誰かを隷属している状態で、隷属スキルを受けたら、先に隷属している者はどうなるのか?
そんな実験を行うという話だ。
確かに、聞いた事が無い。そもそも、スキルの実験するという発想が今まで生まれてきていなかった。隷属化のスキルカードは、レベル5だ。1枚で宿に連泊できると聞いた事がある。今聞いた実験だけでも、10枚近い枚数の隷属化のスキルカードが必要になる。
その上、僕に固定したように、治療のスキルカードをそれぞれに固定して、死ににくい状況を作るらしい。
魔物にはできる魔核の吸収が、人族にはできないようだ。魔核に付けたスキルカードを発動する事ができるので、それを代用をしているとの事だ。僕なら、魔核の吸収ができるのかな?今度、カズトお兄ちゃんにお願いしようかな?
そうしたら、僕を眷属にしてくれるかな?僕程度じゃ、カズトお兄ちゃんの役に立たないからダメなのかな?
『クリスはこれからどうするのですか?』
『僕?学園街にでも行こうかと思う。勉強して、カズトお兄ちゃんの役に立ちたい』
『そうですか、解りました。クリスは、私やエリンとは違う道を行くのですね』
『え?どういう事?』
『私とエリンは、ご主人様の子を生そうと思っています』
『え?お嫁さんになるの?』
『違います。ご主人様のお情けを貰って、私はドリュアスやエントのために、エリンは竜族のために、ご主人様との繋がりを頂きたいと思っています』
『え?でも、眷属だよね?』
『そうですよ。ご主人様のために、私たちは存在しています。だからこそ、ご主人様のためになんでもします』
うーん
リーリアお姉ちゃんが言っている事がよくわからない。なんで、子供を作る事が、ご主人様のためになるの?
でも解った事もある。なんかヤダ!リーリアお姉ちゃんも、エリンお姉ちゃんも好き。でも、僕はカズトお兄ちゃんの事が好き・・・だと思う。まだ、僕は子供だけど、カズトお兄ちゃんと一緒に居たい!
『僕は、カズトお兄ちゃん・・・ううん。カズトさんと一緒に居たい』
『それなら、伴侶になるか、眷属になるかですよ』
眷属になる・・・それも魅力的だけど・・・。僕は、カズトさんの伴侶になる。眷属ではなく、一緒に居るために、カズトさんのお嫁さんになる。
『僕は、カズトさんのお嫁さんになる。今は、まだ子供だけど、いろんな事を覚えて、カズトさんと一緒に居る』
/*** ??? Side ***/
「奴はどうした?」
「奴?あぁあいつなら、昨日、獣人族の女二人と同衾した状態で、死んでいたぞ」
「そうか、奴も最後に、獣人族を救済できたのなら本望だろう」
「あぁハーフの獣人の女だから、余計に良かったのかも知れないな」
「そうか・・・それで?アンクラムとミュルダはどうなっている?」
「まだだ。後10日程度で報告が上がってくる。それまで待っていろ」
「そうか、なにか解ったら教えてくれ、どうやら、上層部では何か動きが有るようだ」
「ほぉそうなのか?」
「あぁ教皇のご体調がよろしくないようだ」
「それはまた・・・この時期に・・・いや、この時期だからか?」
「あぁ我ら本部の司祭の中から、欠員になっている枢機卿の選出が噂されている」
「・・・そうか、貴様!」
「お互い様だろう?お前も、アンクラムとミュルダの偵察隊の中に、毒婦を忍ばせているではないか?」
「・・・」
「・・・」
男女は睨み合ったまま別れの言葉を口にしないままその場を立ち去った。