執務室で、カトリナと打ち合わせを行った。俺の後ろにはメイドが控えている。必要ないと思ったが、シロからの指示だと言われて受け入れた。

「ツクモ様。本当に、いいのですか?」

「構わない。それよりも、もう一度だけ聞くけど、本気か?」

「はい」

 カトリナから提出された計画書だが、長老たちでは判断ができなくて、ルートガーに回されて、奴は考慮の必要がないとばかりに、俺に回してきた。俺にしか判断ができないと言うのが、ルートガーの言い分なのだが、別に俺でなくても大丈夫だと思う。

 そして、内容なのだが、ロックハンドを一大リゾート地に変えること計画に玩具や施設を絡めるというアイディアだ。
 問題になりそうな部分は、交渉が始まっているか、終わっている。あとは、行政区の承認だけなのだが、その前に長老衆とルートガーに話を通そうとして、俺に回された。カトリナとしては、いきなり行政区に持ち込んでもよかったのだが、最終的には、俺の所まで上がってくる案件だと思っていたらしい。それが、行政区と長老衆とルートガーをすっ飛ばして、俺に案件が流れてしまって、軽くパニック状態になってしまったようだ。

 計画書は、よくできている。内容を確認していて、驚いたのが、冒険者のノービスの連中が、このリゾート施設に深く関わる事を望んでいるらしい。

 計画が承認されたら、今度はイサークに会いに行く必要があるようだ。

 計画自体は、問題はなさそうだ。
 それに、失敗しても別に困らない。ロックハンドの整備が進む。森の開拓は、ノービスの連中が行えば、ある程度は可能だろう。難しい所は、俺の眷属たちが喜んで協力するだろう。

 建物を含めた具体的な計画は、スケジュールを含めて、策定中だと言っているのだが、規模が大きすぎる。
 そして、俺が提案した玩具だけではなく、カトリナやノービスの連中が考案したゲームまで楽しめるようにするようだ。

「射幸心は煽らないようにしているのだろうな?」

「ツクモ様のご指示通りに・・・。しかし」

 カトリナの不安は理解ができる。
 玩具でゲームだと言っても、スキルカードを賭ける者たちは出てくるだろう。胴元が産まれない様には注意しなければならないけど、イサークたちが計画に絡んでいるのなら、胴元を作ってもいいかもしれないが、倍率とか計算が面倒だ。

「解っている。競い合っている間に、のめり込むような奴が居る。それは考えても無駄だ」

「はい」

「そちらは、ルートに指示を出して、ロックハンドに足を踏み入れた者は、しばらくの間は、ダンジョンに入られないようにする」

「え?」

 隔離機関を設置しても意味がないだろう。
 それなら、強制休養を指示する。

「当然だろう。負けが続いた奴が次に考えるのは、無理してでもダンジョンに潜って、スキルカードを取得する。それで、大きく賭けるだろう?」

「あっ。しばらくとは?」

「そうだな。半年と言いたいけど、30日程度で様子を見るか?」

「パーティーの誰かが欠けたりしたら?」

「それは、パーティーで考えればいいだろう。別に、罰則で縛ろうとは思わない。自己責任だな」

 罰則は設定しない。意味がないからだ。それに、強制休養期間を設定しても、破るやつは破るだろう。それは、自己責任だ。行政区やカトリナが対応を考えていて、行政を動かしているというポーズとして必要なことだ。
 カトリナの表情から、俺の意図を汲み取ったのだろう。安心した表情をしている。

「わかりました。現状で、問題になりそうなことはなさそうです」

「そうか、そのまま進めてくれ」

 計画書と俺からの提案を付け加えた形で、最終案に落とし込むようだ。
 ルートガーと長老衆にも、修正を行った計画で提出するようだ。

「そうだ。カトリナ」

 立ち上がって、帰ろうとしているカトリナを呼び戻して、お願いを付け加える。

「はい。なんでしょうか?」

「ロックハンドだけど、”リゾート地”にするのなら、結婚した者たちが滞在できるような、落ち着いた感じの宿を付け加えてくれ」

「え?」

「冒険者たちにも、パーティー内で結婚した者たちや、行政区でも結婚する者たちが居るだろう?」

「え・・・。はい」

「なかなか二人だけで過ごす機会は少ない」

 カトリナはどこか納得できない雰囲気があるが、リゾート地にするのなら、森の中にでも、別荘を建てればいい。管理や維持に人が必要だけど・・・。なんとかなるだろう。

「わかりました」

 リゾート地に、新婚が使う別荘があるのは良い事だ。
 使わなければ、それこそ長期滞在をして、森にアタックする者たちが使えばいい。

 カトリナが俺の執務室から出て行った。

 少し時間が経過した。リヒャルトが面会を求めていると連絡が入った。
 許可を出して、リヒャルトを部屋に招き入れる。

「リヒャルト。どうした?カトリナのことか?」

「まぁ半分は・・・」

 ソファーに座ったタイミングで、メイドの一人が飲み物と摘まめる物を持ってきた。

 カトリナに、無茶ぶりしている気がしているが、本人が楽しくしているので問題はないと思っている。カトリナも、はっきりとした性格だから、無理だと思ったら、無理と言ってくるだろう。
 リヒャルトが言い難そうにしているのは、”半分”はカトリナの事らしいのだが・・・。

「それで?」

 俺には、冷やした果実水を出してもらった。リヒャルトには、暖かい珈琲だ。

「ツクモ様に、こんなことをお願いするのは、筋違いだとは解っているのですが・・・」

「ん?俺にできる事なら、話してくれよ。そのうえで、判断する」

「ありがとうございます。カトリナが仕事に邁進しているのはいいのですが・・・」

「ん?なんだ、はっきりしろよ」

「はい。ツクモ様。怒らないでください」

「内容による」

「え?」

「いいから話せ」

「はい。カトリナが、ツクモ様の愛妾だと、それで・・・」

「はぁ?どこから、そんな話が?」

「いや、違います。違わないのですが、違います」

「なんだよ?」

「カトリナの商会が大きくなったのは、ツクモ様が助けているからだという話が出ていて、それは、私がカトリナをツクモ様の愛妾に押し込んだ・・・。と・・・」

「ようするに、新参の商会が、やっかみで話を作っているのだな?」

「はい。中央大陸から来ている商人が広めていると解ったのですが・・・」

「あぁカトリナの婚期が遅れるのを心配しているのか?」

「いえ、それは大丈夫です。今、手がけている案件が軌道に乗ったら、結婚したいと言い出しています」

「ほぉ・・・。相手は?」

「いえ、まだ、紹介されていません。なので、婚期は心配していません」

「ん?リヒャルトが知らないのか?大丈夫なのか?」

「はい。カトリナを信じています。それに、相手は、レベル7の契約を使ってもいいと言っているそうです」

「わかった。それで、契約の文言は?」

 興味本位だけど、カトリナからこの大陸の情報を抜こうとしているような奴だと困ってしまう。
 盗まれて困るような情報はないけど、無暗に情報を流出させていい理由はない。

「カトリナの仕事に関する情報を口外できない」

「ほぉ」

 重い契約だ。それなりの罰を想定しないと、組めないだろう?
 スキルカードの契約は、守るべき契約と罰が釣り合っていないと判断されたら、スキルが失敗する。複雑な契約だと、それだけ罰が重くなる傾向がある。

「破った場合には、”死”を想定しています」

「それは、相手から言い出したのか?」

「はい。カトリナと一緒に居る時以外に、”情報を口外しない”という制限で釣り合いが取れそうだと、考えています」

「それなら、何が問題だ?」

「ツクモ様が、女性を宛がえば・・・」

「あぁ別にいいぞ、そんな噂を信じて、娘や孫を押し付けて来る者は、切ればいいだけだ。問題が、それだけなら、問題ではない。気にするな」

「え?」

「リヒャルト、例えば、俺やルートガーに、娘や孫を押し付けて、何か優遇されるようなことが可能か?俺が許可を出しても、長老衆やルートガーが拒否すれば終わりだ。ルートガーが許可を出しても、長老衆や俺が”否”と言えば何も進まないよな?それこそ、レベル4や5のスキルカードを集めるくらいが、限界だろう?」

 俺の話を聞いて、リヒャルトは安心したような表情をした。
 それに、俺にはシロが居る。ルートガーにはクリスが居る。

 ふざけた商人どもを釣るのに、いい餌ができた。