「カズトさん?」

 シロが、俺の顔を見るが、心配はしていない。どちらかと言うと、カイとウミがやり過ぎないか心配している。

「大丈夫だろう。カイ。ウミ。手加減しろよ」

 カイとウミは、俺の声を聞いて、弾けるように森に向かう。

 森の方から、カイとウミが使ったと思えるスキルの波動が伝わってくる。それほど強いスキルは使っていないようだ。

 10分程度は、戦っているような音がしているが、その後で静寂が訪れた。

「カズトさん?」

「大丈夫だ。殺してはいない・・・。と、思う」

 静寂が怖いが、殺していても問題は無いだろう。

『カズ兄』

「ウミか?どうした?」

『コイツらどうする?』

「殺していないよな?」

『うん。カイ兄がすごく怒って、今は生きているけど、いつまで持つか?』

「カイが?」

『うん。里を攻撃してきた人たち』

「そうか、今、生き残っている奴は殺さないで、連れてきてくれ」

『わかった、カイ兄。カズ兄からの指示だよ。腕を切り落とす位なら死なないけど、それ以上は、辞めておこうよ。目を潰しても死なないから大丈夫?そりゃぁ大丈夫だけど・・・。カズ兄・・・』

「わかった。わかった。俺が、そっちに行く」

『うん』

 シロを見ると、ウミからの連絡は受け取れているようで、”状況は把握している”と、いう顔をしている。

「カズトさん」

「カイが、森エルフを殺す前に合流しよう」

「はい」

 シロと、モデストの眷属たちも準備が出来ているようだ。
 捕虜として連れてきた奴らも状況がなんとなく解ってきたのだろう。俺たちの会話だけでは、疑心暗鬼になっているが、それでも戦闘音が聞こえて、すぐに聞こえなくなった。それだけではなく、俺たちが慌てていないことから、感じ取れたのだろう。黙って、眷属たちの指示に従っている。

「旦那様」

「どうした?」

「私たちは、捕虜を連れてステファナ様の下に向かいたいと思いますご許可をいただけますか?」

「捕虜を連れて行くのか?」

「はい。カイ様とウミ様の戦闘は、捕虜たちには見せないほうが良いと愚考します」

「うーん。シロは、どう思う?」

「僕も、捕虜を彼らに任せるのには賛成です」

「そうか・・・」

 捕虜を連れて行くのは、メリットは少ない。肉の盾になる程度の意味しかない。敵愾心を煽るだけで、デメリットの方が大きい気がする。眷属たちに任せた場合に、逃げられる可能性がある。しかし、逃げられても、大きなデメリットはない。
 ステファナたちとの合流に成功すれば、モデストやエクトルがなんとかするだろう。それに、彼らが対応しているのは、多分敵対している者たちではない。草原エルフの一部が、森エルフに命令されて居るのだろう。捕虜を送り届ければ、モデストたちが交渉するのに使う可能性もある。

「よし、捕虜は任せる。逃げるようなら、殺してしまえ」

「かしこまりました」

 眷属たちは、捕虜を連れて、草原エルフの里に向かった。
 結界は、モデストがなんとかすると連絡が入っているようだ。そうでなくても、眷属たちが攻撃を開始すれば、結界が壊れるだろう。問題があるとしたら、眷属たちが攻撃すると、結界以外も壊れてしまう可能性があるくらいだろうが、俺たちが気にしてもしょうがない。

「シロ。カイとウミが待っている。少しだけ急ぐぞ」

「はい。荷物は・・・」

「うーん。格納しておこう。二人だけだから、歩いていったほうがいいだろう」

「そうですね」

 スキルを発動して、荷物を詰め込む。

 眷属と捕虜の荷物を除けば、荷物は多くない。

「さて・・・。首実検になっていたら、洒落にならない。急ごう」

「くびじっけん?」

「あぁ気にしなくていい。部下が殺した大将とかの検証を行うことを言っているだけだ」

「あっそうですね。殺しては居ないようですが・・・。カイ兄様が、カズトさんに連絡をしてこないくらいに荒れている状況なんて、想像ができないですよ」

「俺もだよ」

 カイが我を忘れるほどに切れている。
 何が有ったのか・・・。

『カズ兄!?』

「どうした?」

『カイ兄が、奥に・・・』

「わかった。今から、そっちに行く」

『うん。急いで欲しい』

「シロ。急ぐぞ!」

「はい」

 普段以上の速度で移動する。
 森になっている部分がえぐれている。

「ウミ!」

『カズ兄・・・』

「カイは?」

 ウミが目線で誘導する。
 そのさきには、エルフ族を拘束するカイが居た。拘束と表現するしかないが、実際には逃げられない状況にしているだけだ。周りには、足や腕が放置された状態だ。エルフ族が何人なのかわからないが、2-3人では無いのは、すぐに理解できる。全員が、体のどこかを欠損している状態だ。放置された腕や足から血が出ている以外には、血が出ていないのは、カイが焼き付けているからだろう。
 苦痛を与えるように、腕や足は”切り落とした”感じではなく、”千切れた”や”引きちぎられた”状態だと表現する方が正しいだろう。

「カイ兄様!」

「カイ!」

 シロの呼びかけで、カイは攻撃を止めた。俺の呼びかけで、カイが振り向いた。
 怒りに支配されていた表情が、俺たちを認識していつもの表情に戻る。

「カイ。何があった?」

『カズト様。ご心配を・・・。もうしわけありません』

「いい。それよりも、そいつらは?」

『はい。こいつらは・・・』

 カイの説明は、理路整然としていたが、話を聞いていて思い出したのかウミが怒気を含んだ殺気を開放してしまって、腕や足が無くなった者たちの何人かは、気絶してしまった。
 まず、彼らは、明確な敵だ。
 カイとウミが、住んでいた場所を襲ったのが、彼らだった。腕を切られたエルフ族が、カイとウミの家族を殺していた。理由は、すごくくだらない理由だ。語るのも、愚かに思える理由だ。
 カイが怒ったのは、その後の話だ。
 エルフたちは、殺したカイとウミの家族を、綺麗な皮だけを繋ぎ合わせて剥製にして飾った。
 現れたカイとウミを怒らせるために語ったようだったが、逆効果にしかならなかった。

 シロがカイを撫でることで、落ち着きを取り戻した。
 エルフたちは、それだけではなく、俺やシロを殺して見せしめにしようとしているとも言っていたようだ。

「おい」

「ひぃ!」

 カイとウミからの話を聞いて、エルフたちに話しかけるが、怯えてしまっている。
 治すのも癪だし放置でいいだろう。どうせ、森エルフの里に行けば、確かな情報が得られるだろう。

「カイ!」

『はい』

「奴らを囲うように檻を作ってくれ、この辺りの魔物には壊されない程度の強度でいいだろう。あぁ千切った腕や足は目の前に置いておいてやろう。魔物を誘う餌にはなるだろう」

『かしこまりました』

「シロ。ウミ」

「はい」『なに?』

「こいつらが身に付けているおそろいの腕輪が結界を抜けるのに必要になりそうだ。人数分、集めてくれ」

「わかりました」『はい!』

「うん。結界を壊してもいいな。壊すのは簡単そうだな」

「カズトさん?」

「腕輪は集めてくれ、森エルフへの土産にしよう。結界は、皆で攻撃すれば壊せるだろう。壊したほうがいいだろう」

「わかりました」

 シロが残っていた眷属たちを使って、腕輪を集める。結局、眷属は、俺とシロの従者の役割もあり、数名だけがこちらに残った。
 カイの作った檻の中から、エルフたちが喚いているが、無視することに決めた。

「よし。カイ。ウミ。シロ。結界を壊すぞ。飽和攻撃をすれば大丈夫そうだ。俺が最初に、攻撃する近くに、攻撃を集中させてくれ、森が多少壊れても気にする必要はない。全力で攻撃するぞ!」

「はい」『はい』『うん』

 俺が最初に魔法を打ち込む。
 結界の一部が壊れるのが解ったが、多重結界のようだ。属性が違う攻撃を防ぐようになっているようだ。

 俺の着弾と同時に、シロから順番に攻撃を加えていく、従者もスキルを使って支援を行う。

 3回目の俺の攻撃は、結界ではなく森に着弾した。
 エルフたちの顔を見れば、結界が破壊されたことがわかる。それと同時に、曖昧だった協会がはっきりとわかるようになり、森の全容もはっきりと認識できるようになった。