/*** カズト・ツクモ Side ***/

 シロたちの事はこれでひとまず終わりだと思いたい。
 アトフィア教には、是非遠くで幸せになってほしい。俺に二度と絡んできてほしくない。

 今、ログハウスの執務室でイサークとナーシャと向き合っている。ナーシャはいつもどおりだけど、イサークは少しばかり不安な表情を浮かべている。
 俺の後ろには、シロが居て、俺の横にはエリンが座っている。

「ツクモ殿?俺たちが・・・ナーシャが何かしましたか?」

 ナーシャが何かしたと思う辺りはさすがだな。

「安心しろ、ナーシャの件は置いておくとして、イサークにはいい話だと思うぞ?」
「え?ツクモくん?」

 ナーシャが俺の事を、ツクモくんと呼んだ事で、シロがなぜか睨んでいる。

「それで、ツクモ殿?」

 イサークは話を進めたいらしい。
 いい話だと聞いて少しだけ安心したのだろう。

「ナーシャの話は置いておくとしてイサーク。バトルホースは、冒険者でも必要なのか?」

 俺が聞きたかったのは、冒険者たちの移動手段が増えるという選択肢が必要かどうかだ。

 行動範囲が広がれば、近隣の集落や街への依頼も出せるようになる。魔物は、ダンジョンの中だけに居るものではない。警備隊を作ってもいいが、冒険者が使えないかと思っている。

「ツクモ殿?バトルホース?俺たちに何を求めているのですか?」
「居るのか?いらないのか?」
「いります・・・が、維持するのが難しいのも確かです」
「貸し出す事もできるぞ?」
「っ!」
「冒険者ギルドに数体貸し出して、それを融通してもらうとかがいいのか?それとも、所有して、厩舎のような施設を作ったほうがいいのか?」

 イサークは何か考えている。
 維持費とかいろいろ計算しているのだろう。

「俺としては、その両方がいいと思いますね。俺たちは、一頭一頭買います。その上で、厩舎にあずけて日々の世話を頼むと思います」
「そうか、その方向で話を進めよう」
「それで・・・本当に、バトルホースが居るのですか?噂では聞いていますが・・・」

 そんなに乗り出さなくても、いい形に持っていくつもりだから安心しろよ。

「繁殖を行う必要はあるが、今の時点で500体近い数が居るぞ」
「本当ですか!是非。お願いします」

「わかった。ガーラントに伝えておいて欲しいことがある」
「何をですか?」
「ゲラルトが、馬具を作っているから協力して欲しい」
「馬具?」
「バトルホースに乗るための道具だと思ってくれればいい」
「わかりました!」

 イサークはウキウキと言った感じになっている。

「あの・・・ツクモくん?」
「ナーシャ。甘味抜き2ヶ月の刑な」
「・・・えぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 当然、そうなるよな。

「煩いな」
「だって、だって、この前やっと終わったばかりだよ?本当に、お店でも売ってくれないのだよ?ねぇねぇゴメンなさい。だから、甘味抜き以外でお願いします」

 甘味なしでは生きられない身体になったのか?

「ナーシャ。その前に、なんでか理由を聞かないのか?」
「そうだ!なんでなの?」
「ナーシャ。いろんな所で、俺の特徴を話してくれたようだな?」
「え?あ!」

 ナーシャには心当たりが有るようだ。

「ツクモ殿。申し訳ない。ナーシャにはしっかり言い聞かせる」
「大丈夫だ。イサーク。ナーシャには、2ヶ月間甘味禁止を店側に言っておく、もちろん、クリスとリーリアにもだ」
「えぇぇぇクリスちゃんやリーリアちゃんも??」

 前回は、クリスとリーリアの所で出されるのはOKにしていたが、今回はダメとする。

「ナーシャ!」
「・・・」

 イサークが、ナーシャを諌めるようだ。

「ナーシャ。いいか、いい加減にしろ!ツクモ殿だから、甘味の禁止で終わっているのだぞ!」
「わかっている・・・よ・・・」
「いいやわかっていない。ナーシャ。ツクモ殿じゃなかったら、お前だけじゃなくて、俺たちもペネム街やダンジョンへの出入り禁止でもおかしくないぞ!」

 まぁ当然だな。
 領主ではないけど、権力者が秘密にしている事を宣伝していたのだからな。

「おれは、ナーシャがどうしても、甘味禁止が嫌なら、パーティーメンバーの監督不行き届きで、ダンジョン区への出入り禁止2ヶ月でもいいぞ?」
「え!」

 ナーシャ。嬉しそうにするなよ。イサークが可哀想に思えてくる。

「ツクモ殿。ちょっと待ってください。この馬鹿にはしっかり言い聞かせます!だから、それだけは・・・お願いします」

 やっぱりそうなるよな。

「そうだな。イサーク。お前たち、一ヶ月でどのくらい稼ぐ?」
「俺たちですか?ガーラントは、別口で鍛冶職でも稼いでいますが、それを除くと、4人でレベル6が、20枚程度になると思います」

 4人で200万程度か・・・多いのか、少ないのかわからないな。

「イサークたちは、このペネムダンジョンでは稼いでいる方だよな?」
「ツクモ殿・・・これでも俺たちは攻略組の先頭ですよ」
「そうだったな」

 後ろのシロを見る。
 問題は無いようだ。

「ツクモ殿?」

 イサークは人間的に少し女にだらしない所があるが、腕は確かだし信頼できる。ナーシャはこんなんだけど戦いにおいては一目置かれている。パーティー自体の信頼度も高い。依頼の達成率が高いのだ。
 問題は、ナーシャが口が軽いという所だけだが、シロたちの1番の秘密は本人たちが喋らなければバレる事は無いだろう。

「シロどうだ?彼らなら適任だと思うが?」

 昨日の話し合いの後で、シロとフラビアとリカルダからお願いがあった。
 自分たちは、対人戦闘に特化しているので、魔物との戦闘に自信がない。そこで、俺の知り合いの冒険者を紹介して欲しいとの事だ。そこで、できれば1ヶ月か2ヶ月くらい、対魔物戦闘を学びたいし、冒険者としてのマナーを習得したいという申し入れだった。
 俺として、紹介できる冒険者たちは、イサークたちしか居ない。ナーシャに罰を与えなければならないので、丁度良いと考えたのだ。

「はい。カズト様」

 シロも問題無いようだ。
 実力は俺ではわからない。イサークたちを弱いと思ってしまうが、攻略のトップを走っているのだから、弱いわけがない・・・と思いたい。

 イサークとナーシャが、頭にはてなマークを浮かべるような表情でこちらを見ている。
 ナーシャに至っては、甘味禁止ではないのではと期待しているのだろう。

「イサーク。ナーシャの罪を許す代わりに、お前たちに指名依頼を出したいがいいか?」
「え?」

「受けます!受ければ、許してもらえるのですよね!」

 ナーシャが飛びつく。
 本当にコイツ等で大丈夫か?
 シロを見るが苦笑を浮かべながらうなずいている。

「ナーシャ。少し黙ろうか?俺が、ツクモ殿と話をするからな」

 イサークは、ナーシャを黙らせてから俺の方を向く。

「それで、俺たちは何をしたらいいのですか?スキルカードを取ってくる事ですか?珍しい素材ですか?」
「ハハハ。イサーク。俺が、お前たちにそんなことを頼むと思うか?欲しければ、自分で取りに行く」
「そうですよね?それでは?」
「少し待てよ。今から説明する」

 報酬は、レベル6を50枚とバトルホースを4頭。厩舎は用意してやるが維持費は自分たちで支払う事。

 依頼内容は、シロとフラビアとリカルダとギュアンとフリーゼに冒険者として必要な技術を教える事
 期間は2ヶ月。受けてくれれば、先にバトルホース4頭を渡す。

 目標値としては、最低でもペネムダンジョンで初級のダンジョンの攻略と、中級ダンジョンの安全マージンを取った行動が取れるようにする事。

「ツクモ殿。内容はわかりました」
「ツクモくん。私がその依頼を受けたら、甘味はOKなのよね?だったら、私受けます!イサークがダメって言っても受けます!」
「イサーク。どうする?()()()()()()()がそんな事を言っているぞ?」

 ニヤニヤ笑ってしまいそうだ。
 シロは苦笑の表情を浮かべているし、エリンに至ってはつまらなくなったのだろう。先程から俺の腿に頭を乗せて寝息を立てている。

「わかりましたよ。ツクモ殿。ガーラントもその条件なら反対はしないでしょうし、ピムも喜んで受けるでしょう・・・それに、シロ殿?は、単独では難しでしょうが、2~3人なら初級ダンジョンなら簡単にクリアできそうですからね」
「頼まれてくれるか?」
「あぁ受けますよ。バトルホースは・・・」

 いきなりそこからか?

「シロ。ギュアンとフリーゼの所まで案内してくれ」
「はい。わかりました」

「イサーク。どうする?すぐにバトルホースの所に行くか?行くならすぐに案内できるぞ?」
「ちょっと待って欲しい。ガーラントとピムと合流してからにして欲しい」
「わかった。シロ。フラビアとリカルダを連れて、待っていろ」

 シロは頷いてから
「はい。それで、どこで待っていればいいですか?」
「イサークどうする?」

 イサークは少し考えてから
「それなら、冒険者ギルドで待っていて欲しい。ギルドへの登録もまだなのでしょう?今日は、俺たちも準備がありますから、明日からでいいですか?」
「シロ。場所はわかるか?」
「はい。大丈夫です。昨日、案内してもらいました」

 細かい話は、明日本人たちにしてもらう事にした。
 冒険者ギルドで登録を済ませてからダンジョンに向かう事になる。その過程で、バトルホースの繁殖場所にも立ち寄ればいいだろう。

「イサーク。2ヶ月間頼むな」
「はい。頼まれました。それでナーシャは・・・」
「そうだな。お説教2時間で許してやる。後で、ヨーンの所に連れていけ、今回の件で1番怒っていたのは、ヤツだからな」
「はっ!」「えぇぇぇヤダ!」
「ナーシャ。行かないのなら、甘味抜き1ヶ月だ。どうする?」
「・・・わかった・・・行きます」

 どんだけ、甘味が大事なのかわからないけど、そこまでの物なのか?
 まぁいいけど・・・。

 明日の朝に、冒険者ギルドで待ち合わせをして、イサークたちは部屋から出ていった。
 イサークに新作の甘味として、プリンを4つ渡しておいた。ナーシャが目聡くプリンを見つめていたのは笑ってしまいそうになった。

 二人が出ていってから、シロを座らせた。

「シロ。これでいいか?」
「ありがとうございます。でもよろしいのですか?レベル6が50枚はかなりの数ですが?」
「あぁ問題ない。シロたちが冒険者になって返してくれるのだろう?」
「もちろんです。フラビアとリカルダからも、返せなかったら、私をカズト様に差し出すと脅されています」
「へぇ・・・フラビアとリカルダにはしっかり話を聞かないとダメだな」
「え?カズト様は、僕では・・・私では、ダメなのですか?(確かに、おっぱいも・・・可愛げもないと・・・)」

 何か勘違いして、ブツブツいい出しているが、別にシロがダメというわけではない。
 プレッシャーを与えるにしても、もっと現実味のある内容にしないとダメだろう。

 まだ、なにかシロがブツブツと言っている。

「シロ!シロ!」
「・・・はっはい!」
「昼飯はどうする?明日からの事もあるし、獲物(武器)を調達しなければならないだろう?」

 シロたちには、武器と防具があるが、聖騎士の文様が入っている物を使うわけには行かない。俺が渡した物ではなく自分たちで選ばせたいと思っている。

「カズト様。僕なのですが、カズト様がお使いになっている様な武器がほしいのですが?」

 俺が使っている?なんちゃって刀だな。

「これか?」
「はい」
「うーん」
「ダメですか?」
「ダメじゃないけど、これ、俺が適当に作った物だからな。それに、シロの剣技は”切る”よりも、”突く”や”叩く”ほうが得意なのだろう?」
「え?あっ・・・違います。僕の技量がなくて、そうしていただけです。本来は、”切る”動作もあります」
「ほぉそれを極めたいと言うのか?」
「はい(それに、カズト様と同じ武器が使いたい)です」
「ん?何か言ったか?」
「いえ、なんでもありません。もちろん予備も持っていきます。ダメですか?」

 どうしようかな?
 別に、問題にはならないと思うけどな。刀なんて使っているの、俺だけだからな。

 刀は、鉱石があるからスキル創造を使えば作られるからな。
 長さと重さは、シロにもたせて調整すればいいだろうし、他にも槍や薙刀や剣もついでに作ってしまおうかな?

「わかった。刀のバランスなんてわからないから、シロが使ってみて丁度いい物を創造するからな。少し付き合ってもらうぞ?」
「はい!」
「そうなると、フラビアやリカルダやギュアンやフリーゼの武器と防具が間に合わないかもしれないな」

 俺の腿を枕にして寝ていたエリンが
「パパ。それなら、エリンがフラビアお姉ちゃんたちを案内するよ。武器屋とかに案内すればいい?」
「頼まれてくれるか?」
「うん!」
「スーンが隣の部屋に居るから、スーンも連れて行ってくれ、スキルカードは、好きなだけ使っていいと伝えておいてくれ」
「わかった!」

 勢いよく起きて、エリンが隣の部屋に入っていく、スーンと何やら話をしている。
 スーンが執務室に入ってきた。

「大主様。エリン様と一緒に、4人分の武器と防具を購入するでよろしいのですか?」
「あぁ頼む。あっそうだ。シロの防具も頼む。シロもいいよな。フラビアたちなら間違いないだろう?」
「はい。軽装が良いのですが・・・」
「フルアーマーは重いか?」
「・・・はい。対人ならそれでも良いかも知れませんが、対魔物だとスピードが大事だと教わりました」
「そうだな。スーン」「かしこまりました。皮をベースにした軽装の鎧を見繕う様にします」

「それと」「わかっております。同じものを何個か揃えるように致します」
「あぁ頼む」

 スーンが一礼して執務室から出ていった。
 エリンとフラビアたちが居る所に向かうようだ。

「カズト様。なぜ同じ物を何個か用意するのですか?」
「あぁ・・・あとで説明する・・・かもしれない。それよりも、シロの武器を作るのに、ここだと試し切りができないからな。ダンジョンに向かうぞ?」
「え?あっはい!」

 ペネムダンジョンでは目立ってしまうし、適当な魔物が出る場所を俺が知らない。

 カイとウミとライを連れて、チアルダンジョンに向かう。

 あ!そうだ。シロなら踏破ボーナスが貰えるはずだな。
 どうせ、報酬が・・・とか気にするだろうから、2階層辺りから踏破させてもいいな。道はわかっているし、ライに乗っていけば踏破も簡単にできるだろう。

 フロアボスの前で、武器を創造してシロに使わせる。シロが今日は人に会うからとスカートを履いてきていたのを途中で思い出した。別に、スカートが動いた事でめくられて、野暮ったいパンツが見えてしまったから気がついたわけではない。今度、ヌラにお願いしてセクシーな感じの下着を作って見ようと心のToDoに書き込んだ。

 シロも見られたのを感じてあたふたしていたので、ズボンを履かせた。服装のバランスが悪いが今日はしょうがないと割り切る事にした。

 シロの武器の基本素材は、ミスリルにしている。
 俺がミスリルを大量に持っていたのが理由だけど、シロが何故かすごく喜んだので、良しとしておこう。

 最初は、聖騎士のときに使っていた剣を模造した物にしてみた。
 使い慣れているからなのか、低階層のフロアボス程度なら撃破できている。踏破ボーナスをもらってかなりびっくりしていたが、そういう物だと言っておいた。このチアルダンジョンだけの特徴だと伝えておいた。

 シロの注文どおりに、剣を調整しながら階層を進む。
 剣は、4~5回の調整でシロが納得できる武器が作られた。

 次は、使ったこともある槍だ。柄の部分は、エントの枝を使った。この辺りで1番硬度がある木でスキルスロットが単独で空くのも素材としては理想的だ。ミスリルや鉄鉱石で柄を作ってしまうと、”滑る”のだ。実際に作って使ってみると、最初の間はいいのだけど、血や汗で滑るようになってしまう。滑り止めを作っても、強く握らないとダメなのだ。その点エントの枝を使うと改善される。
 槍も、それほど注文はなく長さの調整やバランスの調整だけで終わった。

 シロは、俺に言われるがままに剣を振るって、槍を使っている。
 少しだけ休憩をする事になった。ライの上で休むだけだ。その間にも階層を疾走して踏破している。

「シロ。どうした?そんな端っこで?」
「なんでもありません」
「話しにくいからもっとこっちに来いよ」
「いえ!大丈夫です。カズト様の声は聞こえます!」
「俺が話しにくい」
「・・・」

 シロが何を遠慮しているのか、ライの張った結界の端っこに座っている。どこで覚えたのか、体育座りだ。
 結界の外に出れば、しっかり剣や槍で魔物を倒している。倒した魔物は、ライの中に保管している。

「シロ?」
「カズト様・・・」

 シロが何かを決心して俺の所に寄ってくる。

「カズト様・・・僕、汗臭くないですか?」
「は?」
「だって・・・昨日も・・・今日も・・・だから、汗臭いと嫌われちゃったら・・・僕・・・だから・・・」

 なんとなく理解した。
 誰かの入れ知恵だろう・・・フラビア辺りだろうか?

「シロ。大丈夫だよ。気になるのか?」
「・・・うん。だって、カズト様の周りの女の子・・・僕よりも全然可愛いし、おっぱいの大きさは同じくらいだけど・・・いい匂いがしていたから」

 そうか?
 うーん。俺としては、シロのほうが可愛いと思うけどな。

「シロ。宿に、風呂が有っただろう?使わなかったのか?」
「”ふろ”?」
「え?風呂知っているよな?」
「??」

 ヨーンとの話を聞いていて何も言わなかったから、風呂の知識があると思っていた。

「わかった、後で教えてやる。それと、シロ。これをやる」

 ミスリルと金をイヤーカフス状に加工して魔核を埋め込んだ物だ。

「これは?」
「イヤーカフスだ」
「??」
「そうか、耳に付ける装飾品だ。使った事がないのか?」
「はい」
「いいからこっちにこい付けてやる」

 少し強引にシロの腕を引っ張る。
 抱きとめる形になってしまったがしょうがないだろう。イヤリングを右耳に付ける。短くした髪の毛の相まって似合っている。

 レベル5魔核を5つ埋め込んだ物だ。試作したが死蔵していた物をシロに渡した。元々は、ドリュアスやエントに渡そうとしたのだが、アクセサリーとして魔核を使うよりも、魔核を吸収したほうが効率が良いことに作った後で気がついた。失敗作だが、デザインに凝った物なので、残していた。

 シロに渡した物は、レベル5魔核は5つ埋め込んである。同じ様な物を複数作ってある。後で、フラビアやリカルダにも渡そう。ギュアンとフリーゼにも・・・数は大丈夫だな。
 魔核にはスキルが固定されている。元々、メイドや執事向けのスキル構成なので、戦闘には向かないが、丁度いい構成だろう。一つはレベル4清掃を固定した。一つはレベル4体調管理を固定してある。残り3枠は、レベル5念話とレベル5治療とレベル5結界を固定してある。

 なぜか、耳まで真っ赤になっているシロだが、真っ赤になったおかげで、ミスリスと金が目立って可愛い感じになっている。

「カズト様!ダメです!」

 もう遅い。装着は終わっている。

「シロ。右耳にスキル道具を付けた。俺が作った物だけどな」
「え?カズト様の手作り?」
「そうだよ。嫌だったか?」

 フルフル頭を振りながら、否定してくれた。

「そうか、レベル4清掃はわかるか?」
「はい。でも、持っていません。持っていれば、使っています(カズト様に汗臭いなんて思われたら・・・僕・・・)」
「そうか、だったらちょうどよかった、右耳を触りながら・・・そうそう、イヤーカフスがついているだろう、それを触りながら詠唱してみろ」
「・・・はい」

 シロが詠唱をはじめた。
 スキルが発動した。うん。成功だな。人族でも、アクセサリーでも使えるのだろう。

「大丈夫だな。ほら」

 シロを抱き寄せて

「汗の匂いもしない」

「ダメです。そういう事では・・・でも、レベル4清掃・・・僕、持っていませんよ?」
「あぁさっきのイヤーカフスにレベル4清掃が固定されている。回数制限無しで使えるから気になったら使えばいい。あと、レベル4体調管理もついているからな。女の子なら必要だろう?あと、レベル5念話とレベル5治療とレベル5結界が発動するから、詠唱がわかれば使ってみるといい・・・ってシロどうした?」

「カズト様。いろいろ言いたい事や聞きたい事がありますが・・・伝説級のアーティファクトですか?僕なんかに、渡して大丈夫ですか?」
「ん?さっきも言ったけど、俺が作った物だぞ?アーティファクトでもなんでもない」
「え?・・・・・・・えぇぇぇぇ」
「耳元で大きな声出すなよ」

「だって、だって、えぇぇ???」

 シロが何か呆然としているので、頭を抱き寄せる。
 数分・・・5分位そうしていたと思うけど・・・やっと、シロが落ち着いてきた。

「少しは落ち着いたか?」
「うん。カズト様ゴメンなさい」
「いや、いい。でも、気にするな。シロはこれから強くなるのだろう?」
「うん」
「だったら必要だろう?」
「うん」
「いい子だ」
「・・・うん」

 頭を下げてうなだれる。
 思わず、頭をなでてしまった。

「カズト様?」
「あっ悪い」

 なぜかそのまま俺まで固まってしまった。

『主様。そろそろ、次の階層主ですがどうしますか?』

「お!ありがとう。カイ。セーフエリアがあるよな?」
『はい。ライにセーフエリアに入るようにいいますか?』
「あぁ頼む。そこで、シロに刀を作る」

 真っ赤になってうつむいているシロだが、今までとは雰囲気が違っている。

「シロ」
「はい!」

 耳まで真っ赤のまま俺の方を見る。目が少しだけ潤んでいるのは恥ずかしかったからなのか?何かを思い出したからなのか?わからない。だけど、以前とは違うように見える。何か、シロの中で気持ちが固まったのだろう。いい傾向だと思う。

 セーフエリアで、刀を作った。
 まずは、バランスは俺が普段使っている物と同じ様にした。形を真似たなんちゃって刀だけど、”切る”事に関しては十分な性能を発揮できると思っている。シロに刀を渡して、次のフロアボスは俺がまずは刀で切ってみせる。
 次のフロアからシロが刀を使って魔物を倒していく。

 何度か魔物を切っていると、調整して欲しい部分が出てきたので、調整を繰り返す。
 さすがに、すぐというわけには行かないので、何度か繰り返した。

 ライの上でも調整は続けた。
 スキル清掃を付けた事が良かったのか、俺の横に座って、刀の調整に意見を出してくる。体調管理も使っているようだし、治療と結界と念話の詠唱もスキルカードを使って覚えている。
 まあ20階層だけど、結界を使って刀の調整をするほうが安全性があがるので丁度良かったのかも知れない。

 25階層で刀の調整はひとまず終了にして、薙刀を作った。こちらは思った以上に簡単に調整できた。槍と同じ長さで同じバランスで作って微調整して終わった。脇差や、短槍や短弓や長弓も調子に乗って作った。シロが嫌な顔ひとつしないで付き合ってくれた。

『主様』
「ん?カイどうした?」
『そろそろお休みの時間だと思いますがどうされますか?』
「え?もうそんな時間?」
『はい。シロと何やら作っていらっしゃいましたが、もう日付が変わる位です』
「え?」

 どうやらシロは気がついていたようだが、俺が楽しそうだったので、そのままにしていたようだ。

「どうするシロ?今から戻るには、次の階層に移動してから転移門で戻って、居住区を抜けて・・・宿区に戻るか・・・ここで野営してから、明日フラビア達と合流して冒険者ギルドに向かうか?」
「・・・カズト様。僕、野営したいです」
「わかった。カイとウミとライもいいよな?」

 カイたちも承諾したので、セーフエリアまで移動して、ダンジョンの中で休む事にした。
 ライが馬車をまだ持っていたので、馬車を使う事にした。1両しか無かったので、シロを馬車で寝かせて俺は外で寝ると言ったのだが、シロとカイとウミから盛大に反対されて、シロと一緒に馬車を使う事になった。
 布団は二組あったので、それぞれが使った。奥に、俺が寝て隣にシロで、入り口近くに、カイとウミが寝ることになって、屋根の上にライと呼び出した眷属が見張りに着くことになった。