「ユリウス。この後どうする?何も無ければ、エヴァに、ユリアンネとラウラとカウラの眠る場所に案内してもらおうと思っているのだが?」
「アル。すまん。少し待って欲しい」
「ん。いいけど、どうした?」
「あぁ」

 ドアがノックされた。
 エヴァの母親が入ってきて、来客だと告げた。どうやら、ユリウスが待っていた人なのだろう。

「お父様!!」

 フォイルゲン辺境伯が入ってきた。
 クリスは知らされていなかったのだろう。びっくりして立ち上がっている。

 その後ろから、この国の王である陛下と皇太子も一緒に入ってきた。

 皆一斉に起立して、臣下の礼を取る。

「よい。今日は、友人の死を悼む為に来たのだ。ライムバッハ辺境伯の友としてな」
「陛下」
「アルノルト。すまなんだ。余がルットマンの動きをもっと早く掴んでおれば、違った結果になったやもしれん」
「陛下。それは違います。父も母もユリアンネも陛下を恨んではおりません。それは間違いありません。恨むべきは、事件を実行した者とそれを後ろで手引した者です」

「アルノルト。そちの気持ちはユリウスより聞いた。カール殿をライムバッハの当主とする。そして、そちは、領内で何もしないで過ごすと言うのだな」
「はっ私は、疲れてしまいました。気持ちの問題です。カールにお願いして、どこか・・・そうですね、ウーレンフートあたりに屋敷を設けて、日々を過ごしていたいと思います。それに飽きたら、国内だけではなく、帝国などにも行ってみたいと考えております」
「・・・・・・・そうか、解った。何も言うまい。しかし、アルノルト。一つ約束してくれぬか?」
「何でしょうか?陛下」
「お主の”行いたい事”が、無事達成できたら、余・・・いや、ユリウスの所に戻ってくると約束してくれぬか?」
「・・・・解りました。陛下。しかし、ユリウス殿下では、役者不足です。クリスティーネがユリウスの隣に立って、左右をハンスとギードが支えているのでしたら、戻ってまいります。しかし、陛下。陛下には、私の旅が終わりましたら、ご報告に伺います。私たちよりも先に逝ってしまった。父や母の話を致しましょう」
「おぉそうだ、それがいい。結局、余は奴に”リバーシ”で勝てなかった。強くなって再戦しなければならないからな。アルノルト。そちと対戦して強くなる」
「わかりました。陛下。他のゲームも含めて、父に完勝致しましょう」

「陛下。他にも・・・」
「フォイルゲンは真面目だな。娘の前だからとカッコつけなくてもいい」
「陛下!」
「解った。解った」

 ぶっちゃけ、皇太子がいない者として扱われている。影が薄いのか、陛下が濃すぎるのか?
 多分前者なのだろう。

「なぁアル。陛下ってこんな人だったのか?」
「あぁそうみたいだぞ」

 ギルが俺に聞いてくるが、俺ではなく、肉親であるユリウスに聞けばいい。

「アルノルト。何かいいたいのか?」
「いえ、陛下。なんでもありません」

「アルノルト・フォン・ライムバッハ。カール・フォン・ライムバッハ辺境伯の件は、ユリウス・ホルトハウス・フォン・アーベントロートが伝えたとおりじゃ」
「はい」

 もう一度確認するように皆を見るが、異議を申し出る者は居ない。すでに、話し合いが終わっているのだろう。
 俺としても、一番信頼できる布陣で、これ以上は望めない。バランスが取れている上に、ユリウスやクリスに取っては統治の練習にもなる。
 ライムバッハ家には家臣も残っている。こういう時に、父が善政をひいていてくれたのが生きてくる。カールが辺境伯を継ぐ事に関しても問題ないだろう。
 このメンバーで無理だったら、誰がやっても無理なのだろう。

 皆もやりたい事があるのだろう。
 それを犠牲にして、俺のわがままに付き合ってくれる。こんなに嬉しい事はない。

「ありがとうございます」

 深々と頭を下げた。
 これ以上に、今俺に出来る事はない。もしかしたら、どこかでユリウス達に、俺の一番の秘密(前世の事)を、打ち明ける事になるかもしれない。
 加護については、秘密にしておく必要も無くなった。父が亡くなってしまったからだ。俺の加護を公表する事で、カールの統治がやりやすくなるのなら、そのほうがいい。

 何秒か頭を下げてから、皆に向き直った。

「陛下。皇太子殿下。フォイルゲン辺境伯。それに、ユリウス。皆に聞いて欲しい事がある」

 皆が顔を見合わせて、ユリウスが代表してくれるようだ
「なんだ?」
「ユリウス。俺の加護やスキルは知っているよな?」
「あぁかなりの加護を持っていると思っている。聞いたのは、地・火・木・風・剣だな。後、お前、光と刀の加護も持っているだろう?」
「スキルは?」
「魔法制御だけじゃないのか?」

「陛下。父から何か聞いていませんか?」
「余もユリウスと同じだな。後、冒険者のイーヴォが、もしかしたら、”氷の加護”を、持っているかもと言っていた。ホルストは何か聞いているか?」
「自慢話だけでしたが、陛下と同じ認識ですね」
「解りました。クヌート先生。学校の闘技場を、お借りしていいですか?できれば、関係者以外は入られないようにしたいのですができますか?」
「いいですよ」
「ありがとうございます。申し訳ないのですが、私に付き合ってください」

 歩いて5分位の場所にある闘技場に向かった。

 道中に、イーヴァさんが合流してきた。ギルドというよりも、イーヴォさん個人の興味だと言われたが、これからお世話になるので、イーヴォさん個人で止めておいてくれるのならいう事で、了承した。

 その時に、イーヴォさんも、拠点を、ライムバッハ領にうつしてくれる事になった。その上で、ライムバッハ家と契約をして、ユリウスたちでは手が回らない所をサポートしてくれる事になった。

 闘技場に着いた。
 今日は、休日でもあるので、使っている者もいなかったので、そのまま貸し切りにする事ができた。
 この闘技場は、アーティファクトの結界で守られているので、強い魔法を使っても問題はない・・・という話だ。

「まずは、俺の魔法を見て欲しい」

 皆が頷く。

”火龍。顕現せよ!”
”風龍。顕現せよ!”
”地龍。顕現せよ!”
”木竜。顕現せよ!”
”水龍。顕現せよ!”
”炎龍。顕現せよ!”
”氷龍。顕現せよ!”
”雷龍。顕現せよ!”

 立て続けて、8体の龍を顕現した。
 それぞれが加護と同じ特性を持ち、命令を実行する。演舞さながらの命令を付け加えていく。

”闇の精霊よ。我アルノルトが命じる。龍体を闇で覆いつくせ”

 龍が演舞している一体がモヤで包まれて見えなくなる。

”光の精霊よ。我アルノルトが命じる。闇を払いて、光を取り戻せ”

 今度は一転して、闇が払われて、元の状態になる。

刀を抜刀して、
”氷結刀!”

 用意していた木材を斬りつける。切り口が氷で覆われる。

”散”

”魔滅刀!”

 龍たちに俺を、襲うように命令を出す。演舞だから、加護の威力は抑えられている。
 それでも、力を感じる事は間違いない。龍を刀で切り刻んでいく。これが異常な事だと解らない者はこの場にはいないだろう。

 風龍と雷龍を、再度権限させ、身体に纒わせて、”思考加速”を行って、加速した状態での移動を行う。雷龍を纒わせる事で、肉体的な加速が出来る事がわかっている。

 ユリアンネたちと一緒にいる間も魔法制御を続けた結果だ。
 クラーラに、負けてから考えていた事を一歩ずつ実現している。

 力の一端を開放して、ユリウス達の元に戻る。
「アル」
「なんだ?ユリウス?」
「今のはなんだ?」
「なんだと言われても、”魔法”としか答えられない」
「詠唱はどうした?」
「イーヴォさんから”魔族がやっていた”と、聞いてできないかと研究した」

 皆の視線がイーヴォさんに集まる
「は?俺は、以前に魔族と共闘した時に、魔族が一言二言で魔法を発動していたと話しただけだぞ」

 何故かイーヴォさんは、涙目になりながら俺に同意を求めてきた
「えぇそうです。魔族にできて、人族にできない理由は無いですからね」
「アル。それはいい。それで、お前の刀は魔法効果を打ち消す魔道具なのか?」
「違う。魔法効果を打ち消す魔法を付与しただけ」
「それは、本当なのか?アルノルト君」
「えっあっはい。やってみましょうか?」

「あぁ頼む。クリス。お前、水の魔法が使えたよな?」

 クリスが頷く。

 クヌート先生が前のめりだ。
「アルノルト君を弱めの魔法で攻撃してみてください」
「・・・アルノルト様。いいですか?」
「うん。いいよ。でも、弱いと、刀を使わなくても、大丈夫ですよ」
「な・・。まずは、それをやって見せてください」

 クリスが水の礫の詠唱を開始する。
 俺が途中で、水の加護を奪ってキャンセルする。
 これで、魔法が発動しない。

「え?なんで?詠唱も完成したのに・・・」
「クリスは見るのは初めてか?あぁそうか、見たことがあるのは、エヴァだけだったな」

 エヴァがうなずいている。話を続ける。

「これは、水の加護が、俺のほうが強いから、俺の命令を実行する事になる。加護が弱くても、多くの魔力を込めれば、それで加護を奪う事が出来る場合もあるようです」
「え?クヌート先生。そんな事が発生するのですか?」
「えぇそうですね。現象としては確認されています。複数の魔法師が同じ加護を同時に使おうとした時に、魔法が失敗する事があるのです。それを、アルノルト君は積極的に使ったのでしょう」

「アルノルト君。その詠唱は、他の人でも使えるのですか?」
「う~ん。どうでしょう。ラウラとカウラが、試した事はありますが、自分が持っている加護しかできないようです。」

「クリス。もう一度、水の礫を撃って欲しい」
「いいわよ」

 クリスの詠唱が始まって、今度は詠唱が終了して、礫が向かってくる。
 俺は、同時に詠唱を開始して、脇差しに水魔法を散らす魔法を付与して、向かってくる礫を切った。
 これで、魔法が散って、礫は無力化される。

「なっおま・・・。アル。他には隠していないか?」
「隠すって人聞き悪いな。聞かれなかったから話さなかっただけだぞ」
「そういうのを隠しているというのだけどな。それで、他には何かあるのか?」
「う~ん。何が一般的でないかわからないからな。さっきのだって、魔族が出来るからやってみた事だし、一部のエルフも出来るよな?」

 ザシャに問いかけた
「えぇそうね。数千年生きた老齢(ハイエルフ)の魔法師が出来ると聞いた事はあるわね」
「え?そうなの?」
「ねぇアル。答えたくなかったらいいけど、君。魔法制御、3.00越えているわよね?」
「・・・・うん。4.71・・・4.73かな?」
「4?本当?」
「うん。皆にはこれから世話になるのに嘘つかないよ」
「そう、ごめんなさい。ねぇ一つ試して欲しい事があるけどいいかな?」
「ん?いいよ」
「ちょっとこっちに来て・・・」

 ザシャが近づいて、詠唱の言葉を教えてくれる。
 すごくいい匂いがしたのは言わないほうがいいだろう。なぜか、エヴァとイレーネの顔が少し怒っている。

「いい。詠唱してみて・・・。ダメ元だから、失敗しても気にしないでね」

 ザシャから空の袋を受け取った。
 それから、ザシャが教えてくれた詠唱を開始する
”精霊よ。我アルノルトが命じる。ザシャ・オストヴァルトの魔力を使いし、ザシャ・オストヴァルトが持つ袋とザシャ・オストヴァルトのステータスプレートを繋げよ”

 俺から魔力が抜けていく感じがしたが、すぐに、返された感じがした。
 ザシャが持つ袋が光った。その瞬間、ザシャが片膝を地面に落とした。

「・・・」「・・・・」

 皆がザシャの方を見る。
「アル。成功した。ギル。魔力ポーション持ってない?」
「有るよ」
「一本ツケでもらえない?」
「ギル。俺が払うから、ザシャに渡してほしい」
「OK。お買上げありがとうございます」

 そう言って、ギルが渡したポーションを飲み干したザシャが、空になったポーションの入れ物を、袋にしまった。
 そして、袋をギルに渡した。

「え?」
「どうした、ギル」
「ポーションの入れ物が無くなっている?ザシャどういう事だ」
「エルフの神秘!じゃダメ?」
「ダメだ!」
「ふふふ。アルのおかげなのだけどね、魔法制御4を超えると、他人のステータスプレートを操作出来るようになる。エルフや魔族では知っている者は多いけど、人族ではまず4になんてならないから、知られていないのでしょうね」
「それで、消えた理由は?」
「簡単だよ。ステータスプレートの中に入っている。袋貸して?」

 ギルから渡された袋からザシャが入れ物を取り出す。
 そういう事か、アイテムボックスの役割をステータスプレートが持っているのだな。
 それで、配置の時に出てきた表示が”アイテム”だったのだな。

 便利になるな。自分の分も今晩にもやってみよう。
 多分、今から全員分をやらないとならないだろうからな。

 原理はわからないらしいが、ステータスプレートの中に入った物は重さも感じないらしい。大きさや重さの制限はあるし、数の制限もあると言っている。
 多分、魔法制御の数値がアイテム数なのだろう。1アイテム保存に必要な魔力は不明だが、配置の数から見ると99のような気がする。これは検証してみれば良いだろう。

「ザシャ。これは、エルフで無くても出来るのか?」
「う~ん。出来ると思う」
「アル。頼む。俺にも同じように・・・しまった、袋がねえ!!」

 イーヴォさんが頭を抱えて座り込んでしまった。
 陛下と皇太子殿下とフォイルゲン辺境伯とクヌート先生が話し合っている。

「アルノルト」
「はい。陛下」
「皆も聞いて欲しい」
「今見た事は、ここだけの話しにする事。各自に、王家から揃いの袋を渡す。あぁザシャくん。先程の物は複数できるのか?」

 ザシャがうなずいている。切り替えも出来るようだ。確かに、あの詠唱なら、袋を変更すればいいだけだろう。魔力をごそっと抜かれるのには違いないだろうから、辛いといえば辛いだろう。

 すぐに袋が用意された。裏側に王家の紋章が入っている。
 この袋は、王家が管理している事にしたいのだろう。

 皆に、イーヴォさんを含めて、袋が行き渡ったのを確認して、
「それで、先程の加護を付けてもらいなさい」
「いいのですか?」「やったぁ!!」
「あれを見て、欲しくないと言える奴がいたら呼んできて欲しい・・・・。我も欲しい。あれがあれば・・・。あんな事や・・・」
「陛下!」
「あぁすまん。それで、その袋と加護が、アルノルトからお前達への報酬としたいが、異論があるやつは居るか?」
「ふむ。まぁ居ないだろう。アルノルトもそれでいいな」
「私はかまいませんが、その程度で良いのでしょうか?」
「・・・ユリウス。クリス。後で、しっかり教えてあげなさい」
「はい」「かしこまりました」

 袋は、中が何重にもなっていて、大きく広げる事も出来るようだ。皆に、それぞれ詠唱を行っていく。

 陛下から、この魔法は、必要最低限しか使わないようにと念押しされた。また、皆にも口外するなという命令されていた。

 そして、袋の事を聞かれたら、王家に伝わるアーティファクトを貸し出されていると説明しろと言われた。

 ”魔法の袋”や”ステータス袋”と呼ぶらしい。これで荷物の運搬が大分楽になる上に、武器や防具の持ち運びも楽になると喜んでいる。

 ライムバッハ家の統治にも役立つ事だから、俺としては嬉しい。

 いろいろイレギュラーな事はあったが、もう少しだけ魔法のお披露目を行って解散となった。

 そして、ユリウス達は、近日中にもライムバッハ領に移動を開始するらしい。俺は、もう少しだけ王都に残ってから、ユリウスたちの後を追うことになった。エヴァも、教会での用事を済ませてから、ライムバッハ領での葬列に参加する事になる。
 陛下からの書状や、今回の事をまとめた資料を、王城に居る文官達がまとめているので、それが完成してから、ライムバッハ領に向かう事になった。