卒業式の日、柊碧人が教室の前でわたしを待っていた。話をしたいと言うので、そのまま中庭に移動する。沈黙から真剣な様子が伺えて、わたしは黙っていた。

「大学、東京に行くの」

ふり絞るような声で柊碧人が言った。わたしは頷いた。

「うん。どうにか決まって良かった」

元気でねと短い挨拶を済ませ、立ち去ろうとすると、

「ねえ、美優さん」
「うん」
「俺、美優さんのこと好きだよ」
「そっか。ありがと」
「俺もそっちに行くから」
「………」
「だから」と言いかけた彼の言葉をわたしは遮った。

「来るのはいいけど、わたしは無理だよ。付き合うとかそういうの」
「なんで?」
「離れてたら、きっと、心配で嫌いになる」

それから、わたしたちは連絡を取ることもなかった。
だから、柊碧人の気持ちがどう変化してしまったのも知らないし、自信がなくて振ってしまったわたしから、もう一度告白をするつもりもなかった。
好きと言われて、本当はすごくすごく嬉しかったのに、顔に出さないようにしたわたしが、あの当時、柊碧人のことをずっと好きだったなんてこと、きっと彼には伝わっていなかっただろう。

そして今は、仮の弟の姉という関係も悪くないと思っていた。見ないようにすれば、いずれ、彼に彼女が出来たとしてもダメージは少なく済む。
そう思っていたんだ。