「えっ?」
「美優さんとなら、俺、友達になれる気がする」

もう自分の気持ちに気がついてしまっているわたしは、彼のことを友達なんて見れないだろう。この気持ちを伝えようとも思わないけれど。

「わたしは、そう思えないから、無理」

断ると、
「俺、知ってるよ」
「なに? 今度はなにで脅す気?」

わざと警戒する振りをする。今のわたしには隠したいことはなにもない。

「美優さんが、そんなに俺のこと嫌いじゃないってこと」

少し的外れだなと思ったけど、言わなかった。今は、それくらいが丁度いい気がした。

「それは、間違ってはいない」
「じゃあ、契約は成立で」

差し伸ばされた手を、わたしが指ではじくと、柊碧人は笑った。

息を吸い込むと、夏の匂いがする。じっとりした肌に張り付いた前髪を指ですくった。

わたしはずっと、自分ごっこをしていたかのように思う。
例えば小豆に投影していたのは、タケちゃんではなく、わたしだったのかもしれない。

それは、わたしを呼ぶタケちゃんの声が、もう聞こえないと感じることのように、具体性もなき曖昧なものとしてわたしを見ていたかったのかもしれない。
ごっこをしていれば傷つかない。そんなことはない。
どんな自分も自分であると、今ならわかるし、心を開けば受け止めてくれる人だっている。
タケちゃんがいなくなって、そんなこと知ったよ。