少しの沈黙を過ぎると彼は、
「俺、武山先輩が死んで、なにをしたかったか分からなくなった。
人の真似をして、自分の中の失った感情を思い出すことがなんになるんだろうってバカバカしくなったっていうか。
だから、今自分が感じていることだけが必要な世界で――本当は、それだけで良かったんだって気付いたよ」
言いたいことがなんとなく伝わると、ふいにまた涙がこみ上げて、慌てて手の甲を瞼に押し付けた。目を閉じても感じる光が、自分の手の冷たさが、自分がこんなに生きていると伝えてくる。
いつかいなくなるのなら、本当の自分を見て欲しかった。どうして、あんなわたしのままで、タケちゃんの隣にいたんだろう。
後悔なんかしたくない。
現実は変わらないから、後悔なんかしたくないはずなのに、何べんも何べんも同じ言葉が襲ってくるんだ。
「美優さん、俺ね、ひとつ嘘を吐いていたよ」
「嘘?」と腕を下ろした。
「本当はね、人の怒る顔を見るの嫌いなんだ。この人がその後、どんな行動するのかって、先を考えるとヒヤヒヤするし」
「ふふ」
「人が悲しんでいたり、泣いているところを見るのも嫌い」
言い切って、しばらくして、
「慰められるような人間じゃないって、分かってるから」
「……それが柊碧人語録の中で、いちばんの慰めの言葉だね」
彼は笑うと、
「先輩、友達ごっこしませんか?」