「でも月子、真面目だから、生徒会やれそうだよね」とわたしが言うと晴菜も「内申点上がるしね。やってみたらいいじゃん。一票入れるよ」と勧める。
「向いてないよ。壇上に立って喋れないし」
「書記やればいいじゃん」
「そうだよ。最初の演説だけ頑張ればいいだけだし」
「無理無理」と困ったように眉根を寄せる。
こんな話題もなんでもないことのように話せていたのに、晴菜が急に「ていうかさ、今日の生徒会長の挨拶、武山先輩じゃなかったから、なんか悲しい気分で聞いちゃったな」としんみりした様子で言うから、言葉に詰まった。
月子が、「わたしも。やっぱりまだ悲しいね」と頷く。
本当だったら、タケちゃんが今日の挨拶をするはずだったのに、副会長が代わりを務めていて、わたしはどうしてタケちゃんは今日もいないのだろうとうわの空で話を聞いていた。
彼女たちの中にも、そんな感情が残っていたことに驚いた。だって、タケちゃんのこと、なにも知らないのに。
「いなくなったなんて、信じられないね。やっぱり」
晴菜が言う。わたしは足を止めて、俯いた。
わたしもといつもなら明るく言えるはずなのに不意打ちだった。
「美優?」
晴菜と月子がわたしを覗き込む。床に大量の涙が落ちた。
手で拭っても、拭っても、溢れ出てきて止められなかった。
二人はわたしの名前を呼ぶと、腕を引っ張り、廊下の端へと誘導した。
泣いている背中をさすってくれた二人の手は、他意なく、わたしをいたわるような仕草だった。