なにも知らないおばさんが無責任に感じて憎しみが湧いた。こんな悲しみを知らないで、今だって自分のことばかりで――だから、タケちゃんには二度と会えませんと言ってやりたくなった。

おばさんに会ったせいで、タケちゃんは――。

その言葉が浮かんで、違和感を感じた。本当にそうなんだろうか。おばさんのせいなんだろうか。むしろ、子供と再会したい、話したいなんて、自然な気持ちのように感じる。

なら、どうしてタケちゃんは死ななければならなかったんだろう――。

『ただ運が悪かっただけ』
『やりきれねーな』

そんな言葉で死んでたまるか。なにを責めたらいいのかわからなくなる。タケちゃんにだって、言ってやりたい。嘘つきだと――。

冷静になると、タケちゃんの怒りが、わたしの心をかすめていったようだと思った。今になって、殴りかかっていった彼の気持ちがほんの少しわかったような気がして、手が震えた。

「美優ちゃん?」と、おばさんが怪訝そうに言うから、言葉を飲み込んだ。腰をかけ、話題を変えて誤魔化す。

「あ、え……と小豆はあの後、どうしたんですか?」
「小豆? ああ、そうね。あれから一年ちょっとして亡くなったけど、安らかな最期だったわよ。本当、最期まで一緒に暮らせて良かった」と懐かしむように目を細めた。

「そっか。タケちゃん、気にしてたから、伝えます」

おばさんは頷くと、「右京のこと、これからも支えてあげてね」と、わたしの手をとった。

少し疲れた皮膚の厚みを感じる。顔を見ると、おばさんはタケちゃんに似ていた。タケちゃんの手を思い出しながら、そっと握り返した。










わたしが教室で騒いでいた噂話を信じたのは、バランスの悪い彼のことや、おばさんを憎む気持ちをよく知っていたからだ。

みんなは知らない。タケちゃんが生徒会長で、有村先輩と付き合っていて、幸せそうに生きていたことしか知らない。

本当のタケちゃんは、誰も知らないんだと思うと切なくなる。

そして、いちばん悲しかったのは、タケちゃんの最期の感情が行き場のない怒りだったことや、おばさんの愛情というものを彼は感じないまま、いなくなってしまったことだ。