「やっぱり、会いたくなかったのよね。あの子……あんなに怒ってたから」
おばさんは息を吐くと、
「そうね。右京の言うとおり、離婚して県外に出たの。あの子達とはまあ……色々あって会わない約束もしたから、近くに住むわけにもいかないと思って。
でもしばらくして縁があってね、再婚したんだけど、すぐに夫がこっちへの転勤が決まって、戻って来ちゃったの。
近くにいてはいけないと思っていたんだけど、心のどこかで、また会えたらいいなと思ったりもして……。
ほら、ここ地下鉄の駅と繋がってるでしょ?
だから、もしかしたらここを通ることがあったりしないかなとか想像したりもしてね。
一目でいいから、やっぱり会いたかったのよね」
でも……と声が震えた。
「実際、仕事が終わって通りを歩いてるときにね、向こうから右京が来るのが見えて。一目でわかった。会いたい思いが通じたみたいで嬉しかった。
本当はそれだけで良かったはずなんだけど、やっぱり、どうしても声をかけたくなって、抑えられなかったの」
わたしは「抑えられなかった」と呪いの言葉を言うように反芻する。
「そう。だから、声をかけたんだけど、案の定、右京がわたしだと気が付いた瞬間、すごく興奮して、掴みかかられちゃって――ああ、わたし、息子にこんな顔をさせて、本当にダメな母親なんだって実感したわ。
やっぱり二度と会ってはいけないんだって、再会して実感させられた」
ダメねと呟きながらおばさんが自虐的に笑うから、「あのっ」と立ち上がった。