『生きていてほしい』
時間は巻き戻せないから、後悔し続けても現実は変わらない。
本当を伝えたい。あの時も今も変わらない本当を。
わたしは、生きていて欲しかったから、側にいることを選んだんだ。
タケちゃんは、わたしのそんな気持ちには気づいてない。だから、わたしは、タケちゃんにただ生きていてほしいと、あのとき言えなかった思いを伝えなければいけない気がした。
「タケちゃんってさ、頭いいのか、悪いのかさっぱりわかんないよ。
生まれたことに意味なんか必要ないよ。
生きてるだけでいいんだから。
それはわたしがいてもいなくても同じことだよ。
タケちゃんはここにいるだけで、いいんだから……いるだけでもうタケちゃんって意味になるんだから。
だから、タケちゃん、約束して」
わたしはタケちゃんを見つめた。
「死んじゃだめだよ」
タケちゃんはきょとんとしてから、噴き出す。
「死ぬって? 人はいつかは死ぬよ」
「そういう意味じゃなくて。タケちゃん、偏屈」
怒ったように睨むと
「ごめん、ごめん。わかってるよ。死ぬわけないだろ」
「絶対だからね」
「わかった、わかった」
「絶対」
「うん」
わたしの頭をポンッと撫でた。お日様に触れてきたような温かさがあって、本当はずっと存在していたのに、感じられなかっただけだ、互いに――そう気づけて、わたしはもう大丈夫だと思った
約束してくれた笑顔を見送ると、泣きすぎて痛くなった頭はすぐ眠りの世界へとわたしを導いた。
それからタケちゃんが、予備校帰りに事故で亡くなったと聞いたのは、五日後のことだった。