夜の八時。今日もタケちゃんから連絡はない。わたしからは連絡はしない。主導権はいつもタケちゃんだ。

わたしはいつも人のせいにしているんだと思う。わたしの意思はどこにもない。タケちゃんが有村先輩と付き合うことになったときだって、なにも言わなかった。

ううん。わたしとの関係を終わりにしたいのかと気づいて、黙っていたんだ。

言えたはずだ。タケちゃんに言えたはずなんだ。ちゃんと好きなら言えたはずなんだ。
わたしと付き合ってとか、有村先輩とは別れてとか、気持ちを込めて伝えたはずなんだ。

彼氏や彼女といった名前をつけて、関係に形を持たせて安心したいだけだと、ただ気づかされた。

タケちゃん。わたしからの連絡を待つ日はあるのかな。まだわたしのこと好きなのかな。わたしはどうしたいのかな。

携帯の着信音が鳴る。名前を見ると、タケちゃんだった。ほっとして、電話に出る。

「もしもし」
「何してた?」
「えっと、ベッドでゴロゴロしてたよ」
「ちょっと外、出れる? 今、美優の家の前にいたんだ」
「うん。行くね」

パーカーを片手にとって羽織り、階段を駆け下りた。外に出ると、門の前にタケちゃんがいた。

「どうしたの?」
「いつも来てもらってたから。会いたくなって」

ちょっとだけ散歩しない?と、わたしに言うから頷いた。

「どこか行ってたの?」
「予備校」
「あれ?そんなの通ってたっけ? どこに行ってるの?」
「今週からだよ。駅前の方のところ」
「タケちゃんも来年、大学生かぁ。早いね」
「美優も来年は受験生だろ?どうすんの、学校」
「まだなにも考えていないけど。大学生になれるかな」
「選ばなければ、なれるんじゃないの」と笑う。