「だから、美優さんに彼女の振りをお願いしたのも似た理由だったよ。先輩と関係のある人と一緒にいたら、女性の見方が変わるかなって思ったから。
簡単に実行する気はなかったけど、たまたま二人きりになれたから、つい声をかけてしまったんだ。
実際話してみたら、出しゃばった空気がなくて、嫌じゃなかったし。それに、さっきも言ったけど、自分のことより武山先輩のことを守ろうとする感じも安心できた。
途中で恋愛感情なんて持たれたら怖いから。
それが、美優さんを選んだ本当の理由」
「……そうなんだ」
「だからごめんなさい。先輩にキスしたり、手を繋いだり、無神経なこといっぱいして。
ちょっと試したかったんだ。触れても気持ち悪くなかったから、そういうこと俺にも出来るのかなって確かめたくなった。自分勝手で、本当にすみませんでした」

ヒリヒリするのはどこだろう。考えないようにしたいのに、すごくヒリヒリして、痛い。

「理由はなんとなくわかったよ。わたしは、碧人のことを好きにならないから。女の子らしくないけど、わたしで慣れればいいよ。協力する」と、笑って返した。

だけど彼は首を横に振った。

「でももういいよ。楽しかったから。もしかしたら彼女とか作れる可能性が俺にもあるのかなって気がしたりもした。ありがと」
「そんな……」

さっき自分で言った言葉にはもうなんの効力もないことを知って、わたしはひどくがっかりしていると気づく。

「先輩、俺も訊いていい?」
「なに?」
「武山先輩に執着する本当の理由は何?」
「……好きだからだよ。タケちゃんのこと好きでずっと忘れられないから」と、わたしは答えた。おかしな質問だと思った。

「それだけ?」
「それだけだよ。タケちゃんは有村先輩が好きだから、どうしようもないけど」
「じゃあさ、俺と有村先輩が付きあったらどうする?」