「違うと伝えたら、じゃあと、少し頬をゆるませた顔になって、そのときにくだらなくも浮かんだんだ。武山先輩が好きになるような人なら、俺もこの人のことなら、女性として見れたりするのかなって。
有村先輩は、じゃあの続きは言わなくて、俺に言わせようとした感じだった。言わせたいことはわかったよ。俺から告白してもらいたかったんだろうね。だから、その期待に応えて言ってみたんだ。
有村先輩のことを見てました。付き合ってもらえませんか?って。
そしたら、少し考えさせてほしいと言われたんだ。だけどそう言われた瞬間、俺が無理だと思った。
彼氏がいるのに、考えさせてなんて、家庭があるのに俺にまでいい顔をしていたその人みたいだって。
だから、有村先輩には、もう関わらないようにしようと思ったんだ。そうやって告白だってなかったことにしたつもりだった」
「じゃあ有村先輩のこと好きじゃなかったんだ」
「そうなるね」
「なら、なんでさっき二人でいたの?」
「告白の返事をさせてって声をかけられた。だから、そんなこと忘れましたって言ったら、すごい怒られて」
「それは、怒るに決まってるよ」
呆れながらも、わざわざ声をかけて返事を伝えようとするなんて、先輩はよっぽど律儀なのか、それとも付き合おうという返事をするためだったのかと考えた。どちらかというと後者の予感が当たっている気がした。じゃないと、忘れたという言葉に怒らないと思う。