「タケちゃんのお母さんが、そんなことしてたなんて信じられないよ。だって、仲良かったし」
「……家族と絶縁してるのに?」

そう言われると言い返す言葉がなかった。

「まあ家族の話はそんな感じ。それで先輩に恋人ごっこを頼んだ理由に繋がるんだけど。
中学生になってからなんだ。告白とかされるようになって、急に女子が異性っていう存在だと意識しはじめたら、気持ち悪く感じてしまうようになったのは。
試しに付き合ってみたこともあったけど、やっぱり生理的にダメで。かといって、同性に興味があるわけじゃないし。自分がどこか欠落しているようにも思えて、不安になったんだ。
そんなときふとその人のことを思い出して、女性不信の原因がその人のせいだったら嫌だなって思ったんだ。
だから、変えたかった。
そんなことを理由にしたくなかったから」

そう言ってわたしを見つめた。自分が責められているような感覚がして肌が冷たくなる。

「有村先輩に告白したのは、事故みたいなものだったよ。
入学してすぐに生徒会長の名前を聞いて、その人の子供だって気づいた。それから武山先輩を意識して見るようになってしまったんだ。
それは、その人に育てられた人ならもしかしたら俺と似ているところがあるのかなとか、俺みたいに女性が苦手だったりするのかなとか親近感に近い興味という意味でね。
だから、隣によくいた有村先輩のことも自然と見ていたんだと思う。
そんなとき話しかけられたんだ、有村先輩に。武山先輩のことよく見てるけど、好きなのって」

彼は、ふと何かを思い出したように笑った。