「えっ?なんで?」
「さっき、目があったから」
「あったから、来たの?」
「うん。なんか言いたそうだったから」

ふっと笑いが込み上げる。それから腹の中から怒りが湧いて、持っていた鞄を思い切り柊碧人に叩きつけた。

「って……」
「なんなの、本当に」

もう一度振り上げようとすると、柊碧人が身構える。わたしは気が抜けて、その場にしゃがんで顔を伏せた。

「痛いんですけど」
「痛くしたから、痛いに決まってる」
「手荒い人ですね。久しぶりに話すのに」
「碧人には、そのくらいが丁度いいんだよ」

溜め息が聞こえて顔を上げると、
「一緒に帰ること」と柊碧人が無表情で言った。

「はっ、なんでここで命令が出るのかな」
「なんでって、聞きたいのはこっちだよ。なんで泣きそうな顔してるの?」と、しゃがみながら、わたしを伺うように見る。

「えっ?」

彼の手がわたしの頬に触れ、輪郭をなぞると、顎先を向けさせた。

「まさか、俺が有村先輩と一緒にいたから、何かあったのかなって思ったの?」
「ち……違うよ」
「まあいいや。一緒に帰ろう。美優さんに話したいことがあったから、丁度良かったんだ」と、柔らかく言った

しばらくバス停までの道を無言で歩いた。
何を考えているんだろうと気になって仕方ないのに、それを悟られたくはなくて、わたしからは切り出さないでいた。