「……」

「それともあれかな? 怒った顔を見るのが好きだから、わたしを怒らせたかっただけかな?
付き合った振りしながら、わたしが嫌がることでもしようとか思ってたとか?
本当に悪趣味だね。信じられないんだけど。
でもさ、無神経すぎるよ。
ごっこのくせに、キスとかしないでよ。怒らせたくてそんな手の込んだことしないでよ。
……もうやめる。疲れた。勝手に言いふらせばいいじゃん!」

「美優さん」と、引き止められた腕を振り払って、わたしは走ってその場を立ち去った。









柊碧人は追ってくることも、メールや電話で言い訳をすることもなかった。
それはそうだ。ひとり勝手にわめきちらして、もういいとか言う偽物彼女なんか必要あるはずがない。

さっき受けた胸の痛みが、時間が経つにつれて、ジクジクと化膿してるみたいだった。なんかおかしい。
そして冷静になる。あそこまで怒る必要もなかったかなって。

彼が誰を好きになろうが勝手だし。
恋人ごっことかいう時点で、何か怪しかったし。
別にタケちゃんに危害が加わるわけじゃないし。
わたしを怒らすことも、最近はしなくなってたし。
キスだって、もうしないでって言えば良かっただけだ。
我慢すれば良かったのかな。
あんな風に言ってしまったけど、やっぱりタケちゃんに悪い噂だけはたってほしくないという思いは変わらなかった。