聞き間違いかと思って、頭の中で、今言われた言葉を他の言葉に置き換えようとするけど、うまく言い直せない。
「ごめん、聞き取れなかった」
「だから、付き合ってください。俺と」
ようやくさっきの言葉が聞き間違えではなかったと理解した。だけど、返す言葉が出なかった。
「俺、告白されるとか、もううんざりなんです。だからって、別に彼女が欲しいとか思わないから付き合う気もないし。けど、俺に彼女がいたら、もう付きまとわれなくてすむんじゃないかって思うんです。だから、カモフラージュの彼女が欲しいんです」
「ええと、柊くん、なんでわたし?」
ああそれはと彼は笑った。
「佐山先輩だったら、俺のいうこと聞いてくれると思って」
「はっ?なに言ってるの? 今日初めて話したのに」
「そうですけど。俺、見たんです。佐山先輩と武山先輩が生徒会室でしているところ」
頬が一気に熱を持った。ばれないように俯いて、耳にかけていた髪を直すふりしておろした。
「だから、丁度いいかなって思って」
脅したら、言うこと聞いてくれそうだからと悪びれずに言う。
「見間違いでしょ?」
「見間違いじゃないですよ。佐山先輩はともかく、武山先輩は有名人だし。ほら、生徒会長でしょ。それにあの人だったら、そこを好きに使っても不思議じゃないし」と言う。
「だから女の子が、わたしじゃない子ってことだよ」
「ああ。そっか。じゃあ、あれは、どうかな?武山先輩が、呼んでたじゃないですか?」
「呼んでた?」
「佐山先輩の名前」