「じゃあさ父親が会わせたくないんじゃない? ほら、色々あるじゃん。大人って」
「そういうものかな。子供の気持ちは関係ないのかな」
「うちはそうだよ」
「えっ?」
「うちも離婚してる。原因は母親の浮気らしいけど、すごい小さかったから詳しくは知らない。
ただ父親がもう俺には会いにこないでほしいって言ったみたい。だから会ったことない」
「……そうなんだ。じゃあ全然お母さんの記憶とかないんだね」
「うん。なんだか曖昧なんだ。小さい頃の思い出が混濁してる感じで、ときたま気持ち悪くなるときがある。母親がなんなのか、未だに良くわかんないんだ」
わたしの家まで送ると柊碧人は言った。断ったけど、それも命令と言う。
家はもう目の前になろうとしている。すっかり日は落ちて辺りは暗かった。
「じゃあ、なんかありがとう」
「いいえ」
「彼女のふりしてるけど、ここまでしなくて良いんだからね?」
「付き合わせたし、ちょっと暗くなったし」
「帰り遅くなるのに」
「恋人ごっこだから」と、笑った。