帰る前に柊碧人は、夕食の惣菜を買いたいからデパ地下に行きたいと言った。

「いいけど。いつもお惣菜なの?」
「たまに作るよ。カップラーメン」
「それ作るって言わないよ」
「俺も親父も料理からっきしできないから」
「あれ? お母さんは?」
「うち親父と二人」
「あ、ごめん」

失礼なことを訊いてしまった気がして謝ったけど、柊碧人は微笑んだ。
わたしは帰ったらいつも当たり前の様に夕飯が用意されているから、惣菜を見に行くなんてことはしたことがなかった。
お母さんの料理のレパートリーが少ないから、同じ様なメニューをローテーション。
だからたまに見る惣菜はどれも美味しそうに見え、少し羨ましい。だけど食べ飽きた人にはどう映るんだろう。

「ちょっと適当に見てくる」と、柊碧人は離れた。

わたしは見ても買えないしなんて、ブラブラとただ眺め歩いていた。

ふと前を歩く人の肩越しに見覚えのある女性を見つけた。
色んな種類のサラダが並べられた冷蔵ショーケースの奥に立っていて、レジを打っている。じっと見ていると、目が合う。だけど、気づいていいのかわからなくて、声をかけれない。その人にもそんな戸惑いの色が読みとれて、同じような顔をしていたんだと思う。それから迷った目は、逸らされてしまった。