サーティワンでアイスを食べていると、柊碧人が
「ひとくち頂戴」と、わたしの手首を握ったかと思うと、アイスをすくったばかりのスプーンを彼の口に向けさせ、食べた。
「わっ」
わたしは突然のことに動揺して、左手で持っていたカップをテーブルに落としてしまう。
慌ててカップを起こすと、内側に指が触れてチョコレート色に濡れる。
「何してるの」
クスリと笑い、わたしの手を取るとペーパータオルで優しく拭いてくれた。
だって驚いた。急に顔が近づくから。この前みたいに恐い顔をしていない、気の抜けた表情で。
「ごめん。やっぱり手を洗ってくるね」と、鞄を持って化粧室に向かった。
ハァと溜め息が出た。
手を洗いながら、鏡を見る。このまま冷たい水で顔を洗ってしまいたい気分だった。
なんであんなことが躊躇いもなく出来る。女の子が苦手なんじゃなかったっけ。
それに人ってこう時間をかけて距離を縮めていくものじゃないのかな。
恋人ごっこって、言葉ひとつで距離が縮まってたまるものか。
きっとわたしを見て笑っているに違いない。
そう思いながらなんの為?と、自分に訊いてしまう。
なんの為にからかうの?
理由なんかないでしょ?
驚いたせいだ、ドキドキしたのは。
タケちゃん以外の男の子に優しく触れられたことがないせいだ。
ドキドキが止まらないのは。
「ていうか、止まったら死んじゃうし」
口に出すと、バカバカしくなってちょっと笑えた。
なのに、触れた手や温度が、別に嫌な感じがしなかった自分がものすごく嫌だった。