わたしはこうして自分が眠りにつく前、タケちゃんのことをよく考えて眠る。
すると、たまに違う思い出が顔を出して、胸がキュッと闇の中に落とされたみたいに寂しく、だけど強く暴れ出すときがある。

タケちゃんちにいた猫、小豆(アズキ)。
わたしが物心ついたときにはタケちゃんちの住人として存在していた。白い身体に黒縁をつけて、でぶんとしたお腹を下げてゆっくり歩いていく。ふてぶてしい顔をして、わたしにはあまり懐かなかったけど、タケちゃんには甘えていた。
甘い鳴き声。ときにお腹をみせて服従したようなポーズ。ペロリと出す舌。タケちゃんに撫でられると、細める目。
タケちゃんに甘えたくて撫でられたくて仕方なくて興奮する。

小豆。どこに行ってしまったんだろう。
タケちゃんのお母さんが出て行って、小豆もいなくなってしまった。
タケちゃんにあんなに可愛がられていたのに、どこに行ってしまったんだろう。
そう考えて儚いって思う。

年老いた猫だった。
だから、きっともう生きてない。
死に際は寂しくなかったのかな。寒くなかったかな。ご飯は食べたいときに食べれたのかな。
タケちゃんの撫でる手を、どうやって忘れたのかな。
そんなこと考えて、苦しくなる。
だから、無償にわたしはその猫の名前を呼びたくなるときがあるんだ。