校舎から流れる下校中の生徒の群れを教室の窓から見下ろしていた。
その先を見ると、向かうのは運動場や、サッカーゴールの前、武道場で、教室から出ていっても、所属する場所がみんなにはあるように思えた。

わたしは、また今日も柊碧人と帰る約束をしていた。
今日は日直だから、少し待っててと言われて、まだ自分の教室に席に座っていた。
人のいる教室と、誰もいない教室の空気は明らかに違う。重圧がなく、軽い。解き放たれたような気持ちになる。

「美優さん。帰ろう」

廊下から柊碧人が教室をのぞきこみ、わたしを呼んだ。

「うん」

廊下へ出るなり「手、繋ごっか」と、柊碧人は言った。

「嫌だよ」
「校舎の中だけでいいよ」
「普通、逆じゃない?」
「外だったら、いいってこと?」
「許可してない」と言うのに、学食の中にいるときと同様に、あっさり手に触れて繋いだ。

すれ違う同級生の視線が嫌で、俯いてしまう。
柊碧人は只でさえ目立つのに、こんなところで手を繋ぐなんて、交際を主張しているように見えて嫌だった。

階段を下りようとすると「あ、武山先輩」と、柊碧人はわたしに囁くように言った。