箸ケースに手を伸ばすと、急に柊碧人は手を重ねた。
「な、なに?」
「ねえ」
「手、どけてよ」
「顔、どうしたの?」と、わたしの頬を見る。
「なんか少し腫れてる気がするんだけど」
「気のせいだよ」
「気のせいには思えないけどね」
「いいから。手、どけて。邪魔」
「もしかしてさ」
柊碧人は、わたしの手を離すどころか、片方の手を伸ばし、頬に触れた。
くすぐったい触り方をするから、ぞくっと身震いがした。
「誰かに殴られたの?」
「んなわけないでしょ」
「親?」
「そんなことされたことない」
「武山先輩?」
「だから違うってば」
「でも誰かに殴られたのはあってるでしょ? じゃなきゃ腫れない」
「ばっかじゃない。腫れてないし。妄想にも程があるんだけど」
「妄想?」
「妄想だよ」
柊碧人の手を離して、お弁当を口にいれてかきこむ。もうなにも見たくないし、感じたくなかった。