昨日と同じ場所に柊碧人は立っていた。
わたしが目の前まで来ると、「昨日はすみませんでした」とぶっきらぼうに言うから面食らった。
まさか謝られるなんて思わなかったからだ。

わたしの返事はどうでもいいのか、「場所取ってて」と、言って券売機の方へ向かった。
中央の席に腰をかけてから、タケちゃんの姿を探した。

今日は、視界の中に現れなくてほっとした。有村先輩の姿も。

「今日もお母さんのお弁当?」

彼は、席に着くなり訊いた。

「うん。あ。卵焼きだけ、焼いた」
「料理するんだ」
「しないけど。今日は時間があったから、手伝えって言われて」
「食べていい?」と、わたしが返事をしないうちに、指で卵焼きをつまみ口に運んだ。

「ちょっと」

そう言った頃には、ごくんと呑みこんでしまっていた。「あまっ」と顔をしかめた。

「嘘。砂糖、入れすぎた?」

柊碧人はどこか焦点のあわない目で、なにか考えてるみたいに黙りこくる。
それから、ようやく「大丈夫。好きな味だよ。慌てた?」と、少し笑って言った。

「慌ててないよ。ならいいけど。言っておくけど、卵焼きくらいしか作れないから、全然料理とかできないんだからね」

威張れることでもないけど、強い口調で言ったのは、これ以上出来ないことを命令されたりすることが面倒くさかったからだ。