昼休みを告げる予鈴が鳴る。
柊碧人は今日も学食で待っているんだろう。
行かないという選択さえできるのに、やっぱりその日も学食へ向かう準備をしてしまう。
言いなりってこういうことなんだろうなと、冷静に思った。

教室のドアに手をかけると、肩を後ろから叩かれた。振り返ると、晴菜がいた。

「美優。ちょっといい?」
「……ちょっとだけならいいけど」

少し辺りを気にしたように軽く手招きをする。その後ろには、月子がいて、黙ってわたしたちの後ろを着いてきた。
教室の隅に行くと、「昨日なんで柊碧人と学食にいたの?」と晴菜が声を殺して言った。

「えっ?」
「付き合ってるの? 柊碧人と」

話したこともないのに、呼び捨てで呼ばれるってあまりいい感じしないな。
前まではそんなこと思いもしなかったのに、柊碧人の肩を持った自分がおかしかった。
晴菜は「柊碧人といつから仲良くなったの?」と、答える間を持たせずに、急かしてくる。

それが柊碧人が有名だから仲良くなって驚いた、なんて理由じゃないことくらいはすぐにわかった。

晴菜は今まで誰とも付き合ったことのないわたしに『美優は優しいからそのうち彼氏できるから、大丈夫だよ』とか、『誰か紹介してあげようか?』とか、心配の言葉をかけてくることがあった。それは、本当に思っていることなのかもしれないけど、時折優越感が混じっていることくらいは、わかっていた。
そんな晴菜の言葉にあわせたように頷く月子だってそうだろう。

励ましにはいろいろなタイプがあって、自分が上にいると感じたい人も世の中にはいる。

ときどき、晴菜の彼氏の友達を紹介してくれたりしたこともあったけど、それがうまくいかない度『次があるよ』と言う。その顔は、笑ってるように見えた。