夏の日、一緒に虫取りをした。たぶん、あれは小学生の頃の話。

公園の中に二人でいて、タケちゃんの肩に下がっていた虫かごには大きな緑のカマキリがいた。
鉄棒に止まるトンボを掴まえて、タケちゃんは、羽を両手で持つと引きちぎって食べさせた。
残酷なこと、男の子は平気でするんだなーと、気持ち悪いから見たくなくて、わたしはジャングルジムを上ろうとして握ってみたけど、熱くてやめた。
そしたら、タケちゃんが虫かごを置いたまま、わたしのところに来た。

タケちゃんの手には、さっきまで生きていたトンボの羽根だけあった。風でヒラリ揺れた。
羽根だけじゃ、飛べない。飛ばされるけど、飛べない。かといって、誰かにつけることも出来ない。
それをどうするんだろうと眺めていた。

「お墓」とタケちゃんは、呟いた。
「お墓?」
「これの」と羽根をわたしに突きつける。
「作る?」
「うん」

公園の花壇の土は、柔らかかった。二人で穴を掘って、そこにトンボの羽根を置いて、土をかぶせる。

タケちゃんは、「ごめんね」って言った。
それから、2人で手をあわせた。名前はつけなかった。名前のないトンボのお墓が出来た。
そのときのタケちゃんみたいに、祈りを込めるように、優しく丁寧にわたしを抱く。
そう、殺めたあとみたいなんだ。