「友達とか親にも、携帯見られるの好きじゃないんだ。ごめんね」

角が立たないように優しく言ったつもりだった。だけど、その瞬間、タケちゃんの手が飛んできて、わたしは頬をぶたれていた。勢いよく、冷蔵庫に背中を打ちつける。

そのまま襟元を掴まれたかと思うと、無理やり立たされた。頬がジンジンと熱をもつ。それと同時にタケちゃんの怒りを肌で感じて、わたしは抵抗できなくなった。

廊下を引きずられ歩いていると、タケちゃんの指がわたしの髪に絡まる。もう一生ほどけないのかって思うほど、きつく。うっすら涙が滲んだ。

タケちゃんはお風呂場に着くなり、湯船の蓋をあけた。そこに、わたしの顔を押しつけ、お湯に触れるギリギリのところで止めた。このまま簡単に沈められてしまいそうだった。

「なんで嘘ついたの?」

タケちゃんは、声を荒げることもなく静かに訊くから怖かった。

「ごめんなさい」と、わたしは言った。
「なんで謝るの?」
「ごめんなさい」

抵抗せずに、わたしは謝る。
だってこれ以上、タケちゃんの怒った声を聞きたくないから。