「なんなの。やめてよ」
「俺、人が怒る顔見るの好きなんだ」
綺麗な人が歪む顔とか、好きだし。あと、普段見せない顔を俺だけに見せてくれてると思うと、なんか嬉しいし、と言う。
「なにそれ。悪趣味」
「うん。そうかもね。知ってる」と、顔をわたしに近づけた。
「なに?」
「もっと怒ってよ」
「ただのどMなんじゃないの」
いつの間にか、両腕を取られて抵抗できなかった。
唇が触れ合いそうになる距離で、思いっきり目をつむった。
ぶっと柊碧人が噴き出したかと思うと、腕が自由になった。
「キスされるとでも思った? それか犯されるとでも?」
「お……犯すって」
「そんなことしないよ。男が日常茶飯事、さかってる生き物だとか思ってるんじゃないの?」
「あんなことされたら、誰だって身の危険を感じるでしょ?」
睨むと、
「泣きそうだね」
「そりゃそうでしょう。こんなことされて……」
「知ってる?」
「なにが?」
「武山先輩と、やってるときの顔もそんな顔だったよ」
「な……」
「俺と変わらないのは、なんで?」
「……一緒にしないで!」
我慢できなくて、足元に置いていた鞄で、柊碧人を一度強く叩いて、部屋を飛び出した。